第25話ゲームと人文知について 2─Chants of Sennaarとメタファー:リファンタジオを中心に─

内田樹への「応答」として 


 毎日毎日、耳を塞ぎたくなるようなニュースばかり耳目に入ってくる。かつてこの国で盛んに説かれた「恥」という意識が全く欠落してしまっているとしか思えない。

 良家の子女には枕詞に「どこに出しても恥ずかしくない」という言葉がつくものだったが、「どこに出しても恥を晒す首相」の言動には、ほとほと嫌気がさす。

 そうした礼節や、品位という言葉を持ち出すことすら憚られるような、言説とも呼べないような、品性の劣った言葉があまりに世の中に満ち満ちている。

 私がYouTubeを好まないのは、一つにはこの言葉遣いの穢らわしさ、荒さにあって、「奴」だの「アホ」だの、あまつさえ口にするのも憚られる単語を並べ立てる世の中にあっては、礼節に適う言葉はもはや力を持ち得ないのだろうとも思う。

 端的にキャッチーに響く言葉は、意味を咀嚼することなく脳に入ってくるが、その多くは聞くに堪えないものばかりで、言葉というものは本来「文脈」を持つものであり、「文脈」にはその場にふさわしい言葉遣いか否かということも多分に含まれる。

 伊藤計劃は「虐殺の文法」という言葉を用いたが、虐殺には至らないにせよ、少なくとも耳を汚し、心を傷つける言葉があまりに溢れている。

 「やばい」だの「えぐい」だのと、知性には程遠い言葉の数々で「語彙力がない」「言語化できない」と嘆くのだから世話がない。私には子どもがいないが、このような言葉が巷に溢れる世の中にあって、子育てをしておられる良識ある方々は、どれほど気を揉んでおられるだろうと想像してしまう。

 そうした意味において、Chants of Sennaarは言葉の持つ本来の役割を再認識させてくれるゲームでもあった。言葉の意味するところを謎を解きながら一つひとつ解読し、やがてそれは「孤独と排斥を乗り越え、他者とつながるための言語」として結実してゆく。

 言葉というものの本質的な力や、その品位が損なわれる今にあって、非常に雄弁かつ批評的な現代性を持ち、同時に文化の多様性をそれぞれの面において丁寧に描き出している点は特筆すべき事柄だと思う。

 Chants of Sennaarでは、とある民族において教徒とされる人々が、別のエリアでは悪魔呼ばわりされている。

 だが、それは物言わぬ主人公の丁寧な翻訳作業によって克服され、各エリアごとに貫かれていた縦社会の身分制度を超えて、人々は「兄弟」としてつながる。

 これは見る人から見れば理想主義の誹りを受けることになるかもしれないが、ファンタジーをはじめとするフィクションのひとつの役割が社会への批評や批判と、理想の提示にあるとすれば、このChants of Sennaarは、総プレイ時間15時間という小規模なインディーゲームながらも、その役割を十全に果たし切ったと言っていい。

 そうした点において私はChants of Sennaarと、「幻想」という形で現代を批評的に描き出した、アトラス作品の「メタファー:リファンタジオ」は、同じジャンルに属する物語のゲームであったと思う。

 両者は尺の長さも、ゲーム性においても大きく異なるが、多様な出自を持つ他者を受け入れ、言葉による民主主義をもって身分制と相対し、やがてその融和を果たすというメッセージについては共通するところが大きい。

 現代をクリティカルに表現する上で踏まえておくべき良識と認識、そしてそのバックボーンにある豊かな人文知に裏打ちされていることによって、双方のクリエイターはその持てる才気と力とを余すところなくゲームで表現し切ったと感じた。

 優れた作品に多くの言葉はいらないのかもしれない。

 しかし、ともすればゲームの評価においては、買いもせず、プレイすらせずにネガティブな印象だけで非難の声が拡大する今のこの国において、Chants of Sennaarも、メタファー:リファンタジオも、ゲームのクリア地点まで到達した者のみに与えられる、ひとつの理想の結末と、その安らぎに満ちた栄光の光とを、プレイヤーの頭上に輝かせてくれた。

 そのまぶしい光を抱いて、この息苦しい世の中を生き延びてゆくための糧としたい。


Thomas Brunet/Chants of Sennaar(Original Soundtrack)

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