第7話 君にかけた魔法

(朝)


//SE アラームの音


「おはよう」


「うん。今日はね、気づいたら朝だったの。君がまだ寝てたから、寝顔見てた」


「だって、気持ちよさそうに寝てたんだもん。起こしたら可哀想かなって」


「……うん。あと、たぶん20分くらいかな」


(寂しそうな声で)

「……私も怖かった。もしかしたらもう、二度と会えないんじゃないかって」


「自分がどうなっちゃうのかも、分からないから」


//SE 手を叩く音


「なーんて、悲しい話はもう終わり! せっかくまた会えたんだもん! ね、なにする?」


「そうだ! お花見しない? このアパートの前、桜あったでしょ」


「久しぶりに、君と出かけたいなって」


「ありがとう」





//SE ドアを開ける音


「桜、綺麗だね」


「一本しかない? いいの! 一本あれば」


「それとも君は、たくさんないとやだっていう、浮気性な男の子なの?」


(からかうように)

「分かってるよ。君は、私単推しだもんね?」


「……私、桜好きなんだ」


//SE 風が吹く音


「うん。綺麗だから。……でも、それだけじゃないの」


「桜の木って一つの場所に根を張って、毎年そこで咲くでしょ?」


「一年のうち、綺麗に咲いている期間は短いけど……それでもみんなが桜がある場所を覚えてて、春になったら、みんなが同じ場所に桜を見にくるでしょ?」


「なんかそれがね、アイドルみたいだなって思ったんだ」


(ちょっと照れ臭そうに)

「アイドルって、いつも可愛いわけじゃないの。でも、ファンのみんなが会いにきてくれる時は、精一杯可愛くいようって頑張るの」


「なんだか、桜と似てない?」


(拗ねた声で)

「えー? あんまりピンとこない? むぅ……」


(耳元で)

「でも、今の話、君はきっと忘れないでしょ?」


「さっきのは、魔法だったの。君が毎年、桜を見たら私を思い出すようになる魔法」


「でもね、私が君にかけた魔法、さっきのだけじゃないんだよ?」


「果物のメロンを見ても、君は私を思い出すでしょ? 緑色の物を見ても、きっと私を思い出すでしょ? 生チョコを食べても、私を思い出すよね?」


(おどけた声で)

「ホラー映画で幽霊を見ても、私を思い出すんじゃない?」


(嬉しそうに)

「ね? 他にもたくさんあるんだよ。君は一生、私を忘れられないね」


//SE 手を繋ぐ音


「他の女の子と手を繋いだ時も、ああ、この子は冷たくないんだなって、君は一生思っちゃうの」


「君にとって、一生、私は特別な女の子だね?」


(残念そうな声で)

「……あーあ、今日はもう、そろそろ消えちゃうみたい」


(泣きそうな声で)

「ねえ、また会えるかな」


「会えなくても……絶対、忘れないでね?」


「次に会えた時、私に話したいこと、私と一緒にしたいこと、君も考えておいてね」


「私、また会えるって、信じ―――」

(途中で声が途切れる)


//SE 風が吹く音

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