第2話 魔弾の工場(Shoot to Kill)
午後十一時すぎ――
静岡・愛鷹山の麓にある、菱田フーズ沼津工場。昼間は冷凍弁当の加工ラインで賑わうが、今は静まり返り、冷気が床に漂っていた。
榊慎吾は、外階段から非常口を静かに開けた。遮光されたゴーグルに、真っ赤な熱源が一つ、事務室の奥に映る。
――いたな、五味泰三。
元工場長。横領、詐欺、女の子に手を出し、労災隠蔽もある。人間として終わってるが、そんなことはどうでもいい。
「仕事だから殺す。それだけだ」
慎吾は、懐から黒鉄の拳銃を取り出した。コルトM1911を改造した特注品。だが、弾丸は普通の鉛ではない。
魔力が満ちるたび、彼の手には「黒煙の
悪を積めば積むほど、魔力の収束は増す。
(…今日は、昼にホームレスから財布をひったくったし、夕方に交通トラブルで一般人を一発殴った。それで2発分の魔弾はチャージ済みだ)
照準を合わせる。心拍が落ち着く。慎吾は一切の躊躇なく、引き金を引いた。
バン――!
サイレンサー越しの乾いた銃声と同時に、事務室のガラスが砕け散る。魔弾は空気を切り裂き、熱源へ一直線――
が、次の瞬間。
「……ッ!」
銃声が二つ、重なった。
慎吾の右肩に、何かが命中した感触。鈍い衝撃とともに、床に血がにじんだ。
――撃たれた。しかも、腕のいいやつに。
冷気の中から、誰かが姿を現す。フードを被った女だ。顔の半分は白いマスクに隠れている。
「…あなた、榊慎吾ね。東静スタッフからの“清掃業務”担当。」
声に感情はない。だが、右手に構えた銃は、明らかに“殺しに来た”ものだった。
慎吾は、肩を押さえながら笑った。
「へえ、最近は**“派遣先の掃除”にもダブルブッキングがあるのか。**」
女は、静かに銃を構え直した。
「――私は《リスト・オフィス》。あなたの“存在”が、魔法犯罪として、派遣業界全体にとって危険すぎるのよ。」
慎吾の口元が吊り上がる。
「ようやく面白くなってきたな…」
左手に魔力が集まる。悪意と共に、黒煙が渦巻く。
魔弾、第二発目、装填完了。
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次章予告:
第三章『
フードの女の名は雨谷ルカ。魔法を感知し抑制する“監査者”。
撃ち合いの最中、慎吾の中に眠っていた“上位魔法”が目覚める――
黒い契約の代償として、彼は何を失うのか?
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