009-視線と訪問

黒松通り駅を降り、地上へと上がる。

すると、僕に一斉に視線が集中した。


「あ...............」


つい、足が止まってしまう。

奇異なものを見る視線、好奇心が含まれた視線、恐れるような視線。

今まで僕に向けられたことのない視線が、僕を襲った。


「......こんなんじゃ、駄目だな」


僕が立ち止まっているのをいいことに、周囲から録音する音や小さなシャッター音が聞こえる。

このままではSNSのトレンドに乗ってしまうかもしれない。


「――――!」

「――――――!」


僕は観衆を振り切って駆け出した。

何人かは追いかけてくるものの、僕の身体能力は以前と違って異常なほどに高くなっている。

頑張って走っているうちに、撒くことができた。


「はぁ......」


気付くと、指定された住所まで近いところに来ていた。

僕は溜息を吐き、知らない人に会う覚悟を固めた。


「偽物とか言われて、攻撃されたらどうしよう.....」


僕はまだ、戦えるほど強くない。


「.....心配しててもしょうがないか」


僕は箱のナビに従って、指定の住所まで行くことにした。

といっても、本当にすぐそばだ。


「確か、ボクが近づけばいいんだっけな....」


”総督府”もそうだけれど、アディブ人の住居の入り口は普段はカモフラージュされていて、誰も近づかない場所にあるのだ。

今回は......


「......自動販売機?」


....の横の、何やらよくわからない白いハコが、入り口だった。

僕が近づくと、ハコからインターフォンらしきものが突き出してきた。


「.....これを押せばいいのかな?」


僕はそれを押してみた。

すると、聞いたことのない音色のチャイムが鳴り、数秒後ハコが開いた。


「こりゃあ、驚いた....同族かね」

「はい、お届け物です」


出てきたのは、高齢なのか、それとも性格なのか言葉遣いが古めかしいアディブ人だった。


「そうか....上がっていきなさい」

「い、いいんですか?」


その人は、僕に向かって目を細める。

今のは.....笑ったのかな?


「たまの来客じゃからな、同族などめったに訪ねて来んよ」

「じゃ、お邪魔します....」


せっかくのお誘いを断るわけにもいかない。

僕は開いた入り口の中に入る。

すると、その先は広い家の玄関になっていた。


「ここは?」

「ん? 何じゃ、何か拙かったかのう」


不思議そうな目で見られた。


「あ、いえ......ま、前に行った家と似ていたもので」


僕は適当に誤魔化す。

そうだ、アディブ人はすごい技術を持った文明なんだから、見た目とは全然違う家でも不思議じゃない。


「そうかい、ディオームはやっとるか? その家に訪れてみたいもんじゃ」

「すいません、持っていなくて」


ディオームが何かもわからず、僕は適当に話を合わせる。


「なんと、クジェレンはあるか?」

「無いです....」

「そうか......別に義務ではないしのう、儂も1200年は生きとるが、買ったのは最近じゃ」

「1200年.....」


いったい、アディブ人は何千年生きるんだろうか。

僕も、元に戻れなかったら、このまま数千年.....?


「今お茶を淹れるよ」

「はい」


キノコのような不思議な形の椅子(後でレイシェさんに聞いたら、アディブ本星の植物を模したものらしい)を勧められた僕は、それに座った。


「.......!」


おじいさんは空中に投影されたモニターをポンポンとタッチして、数秒後その手にお盆に乗ったお茶が現れた。

どういう技術なのか、全く見当もつかない。


「さあ、お茶しよう、時間はあるかね?」

「は、はい」


ここで帰っても相手に失礼だし、僕はしばらくこの人と話をすることにした。

ボロが出なければいいけれど。

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