星繋ぎのアスト〜レア掘り冒険譚〜

灰色かぶり

第1話 一縷の賭け


無限に広がる暗闇の中、二つの光が混ざり合い、形をなし、やがて一人の──裸の男になる。


男は底なしの深海に向かって沈むように落下し始めた。


(……んぁ、死ねたのか・・・・・……そうか、ハハッ賭けには勝ったんだな。ざまぁみろ)


男は自分が死んだことを思い出し、心の中で愉快そうに笑った。


男は何かを成し遂げたのだろうか。


その時、男の身体から光の粒子が零れ出る。


(…………ん? どうして死んだんだ? うぅ〜ん……分からない……まあ、いっか。どうせ、思い出せないし)


次の瞬間、男は死ぬ直前の記憶を失った。


現在進行形で零れ続ける光の粒子により男は徐々に記憶を失っているのだ。


そう遠くない未来に男は何も思い出せなくなるだろう。


だが記憶を失ったことすら認識出来ない為、男は落ち続ける浮遊感に身を任せる。


不意に男の頭上の彼方から大きな流れ星が横切った。


(……流れ星? なんか造形が生き物ぽかった気が……ん? なにを考えてたっけ?)


一瞬の疑問も光の粒子により霧散してしまう。


それからしばらくは揺蕩う心地良さに身を任せ、徐々に瞼が閉ざされていく。


今にも閉じようとした瞬間、眩い光が男の前に現れる。


すんでのところで閉じかけた瞳を光に向ける。


『まさかこんな場所に〝人間〟が居るなんて……凄い奇跡だね』


光は人の形をとり、そのまま発光し続ける。


だが光の人物は少しだけ自分の言葉に不満を抱いたのか言い直す。


『違うね……きっと“幸運“なことなんだ』


よく聞けば非常に可愛らしくあどけない少女の声音であった。


光の少女はしばらくの間、じっと男を観察し一つ頷く。


『きっとこの出会いには意味があると思う……だから、身勝手ながらも君に最後の賭けをさせて欲しい。……もう次は残されていないだろうから』


物言わぬ男に光の少女は、男の胸辺りに触れた。


次の瞬間、男の脳裏に無機質な声が響いた。


『魂の情報を取得……完了。対象者【稲田明日人いねだあすひと】の人格データを取得……完了。魂と人格データを元に〝素質〟を“スキル“に変換開始…………完了』


『【我慢】取得。【最下級体術】取得。【最下級剣術】取得。【剛力】取得。【剛健】取得。【知恵】取得。【冷静】取得。【技術】取得。【俊敏】取得。【超体】取得。【超魔】取得。【超気】取得。【天賦の才】取得』


なにやらゲームのようなアナウンスにより、男は沢山のスキルを獲得したようだ。


見守っていた光の少女は驚いたように言葉を零す。


『うわぁ……さすがだね。凄い素質の持ち主だよ。伊達にこんな〝狭間〟に迷い込めるだけの事はある、のかな……いや、普通は無理だよ? 不思議なんだけど、うぅ〜ん、さすがに君の方が長く持たなそうだなぁ〜。説明不足で申し訳ないけど、最後にボクからささやかな贈り物を』


男から流れ落ちる光の粒子の量からしても確かに長くは持たないのだろう。故に、光の少女は疑問や伝えたいことを堪えて、もう一度男の胸に触れた。


『──からスキルが送られました。……取得成功。【共通言語】取得。【インベントリ】取得。【幸運な転生者】取得。……【幸運な転生者】のスキル効果により幸運系のスキルを取得……【強運】取得。【超運】取得。【天運】取得。【宝石蝶】取得』


『成功したみたいだね……良かった』


そう言葉を零す光の少女は、小さな光の玉にその姿を変えていた。発する光量も弱々しい。


『君は望んでいないのかもしれない。あるいは喜んでくれるのかもしれない。もしかしたら怒るのかもしれない……でも、もしもボクの二つの我儘を聞いてくれたら嬉しい。一つ目はこれから君はとある世界に転生すること。これはもう決まってしまった事だから……ごめんね。もうひとつは……可能ならでいい。無理そうなら諦めても一向に構わない。君はその世界を好きに生きてもいい。でも、もし……もしも、叶うなら…………』


そこで言葉を区切り、光の少女は意を決して男に二つ目の我儘を伝える。


邪神あいつを倒して欲しい』


意識があるかどうかも怪しい男は身体が徐々に透明になり始める。


転生が始まったのだろう。


『君の旅路に幸運があらんことを』


光の少女の祝福を受け男は消え去る。


その直前、男はか細い声で応えた。


「まかせて」


少女は泣きそうな声音で囁く。


『ありがとう』

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