33:震える社畜
「嫌だあああー!」
白神の里の公民館へ足を運ぶヤスタケとワカバ。そこには既に里のスタッフらが待ち構えていた。ジーワジーワとセミが鳴く声がやけに響く。四方八方から鳴いているのだ。
そして、そんなセミよりも更に大きな声で絶叫を上げる男がいた。
町田ツトム。『町田ダンジョンズ』からなる様々な施設を運営する町田コーポレーションの御曹司。
彼は嫌だ嫌だとわめきながらジタバタと暴れているものの、金髪ポニーテールの欧米ハーフ女子に羽交い絞めにされ、抵抗虚しく押さえつけられているところである。
彼は到着したヤスタケを見つけると、怒りの矛先をそちらに向けるのだった。
「てめっヤスタケぇ! 僕をハメたな! いつの間にパパを丸め込んだんだ!?」
ツトムがこのように振る舞う事の経緯は、ヤスタケが『町田ダンジョンズ』での【ダンジョンアタック】を成し遂げた後、この白神山バトルトーナメントに出場申請をした辺りまで遡る。
ヤスタケはあらかじめ、自身がトーナメントを優勝する算段を立てていた。その上で、この未知なるダンジョンを攻略するためには、パーティーを組むことは前提条件だった。
なにせ『町田ダンジョンズ』はこれまで、何度も【ダンジョンアタック】の配信が行われ、すべての階層の予習ができる状態だった。
それでも初見で攻略できるのは偉業としか言えないのだが、しかし、次は予習も何もない。
【ダンジョンアタック】の経験が圧倒的に少ないヤスタケにとって、新設のダンジョンに一番最初に飛び込むなど、明かりのない夜の山道を歩くようなものだ。
仲間……共にダンジョンを探索してくれるパーティーの存在は欠かせない。それも、なるべくダンジョン知識が豊富で、経験とセンスもある人材が望ましい。
ヤスタケが一番最初に思い描いた人物こそ、ツトムだった。
【ダンジョンアタック】中、彼の解説も聞いていた。とても的確で冷静だった。
しかし早速申し込んでみれば、間を置かずに拒否されたのだ。
最初は、もしかしてツトムもトーナメントに出場するのかと考えたが、それも違う。むしろ『町田ダンジョンズ』はトーナメントの運営業務を依頼されていたために、ここでの参加を見送っていた。
「報酬は払います。ツトム君ほどのカードセンスと冷静な状況判能力があれば、とても心強いのですが」
「嫌だね。なんで僕が【処女ダンジョンアタック】だなんて危険で面倒なことをしなきゃならないんだ。そもそもカードバトルでお前が勝てる見込みなんてないからな。思い上がるんじゃないバーカバーカ!」
本人のやる気が皆無だったというわけだ。
仕方がないので、ヤスタケは町田コーポレーションの代表であるツトムの父と話をすることにした。
ヤスタケの要望はすぐに叶えられた。
「町田代表、お願いします。息子さんの類稀なる才能を、是非とも間近で勉強させて頂きたく存じます。共に【ダンジョンアタック】へ挑むためのパーティーを組ませては頂けないでしょうか?」
「いいよいいよぉ~。でもあのバカたれは臆病者だから、そのまま言ったってテコでも動かんだろうね。どれ、一肌脱いであげましょう」
こうしてツトムは、まんまと自身の父親にすら欺かれ、表向きは『町田ダンジョンズ』の運営スタッフとして同行。しかしその後に、その成り行きを全て知るスタッフ一同に取り押さえられ、半ば強制的に【ダンジョンアタック】のパーティーメンバーに仕立て上げられたのだった。
「お前も放せよ! なんでそんなに力が強いんだよ! クビにするぞ! クビ!」
部下にも騙されていたことに憤慨していたツトムは、自身を押さえつける金髪ガールのツガール・鶴田・ミクにも怒声を浴びせる。
しかし彼女はあっけらかんとし、逆にツトムへ尋ねるのだった。
「いや……ツトム様。そもそもそんなに嫌なら、『召喚カード』で無理やりでも引き剥がしてしまえばいいでしょうに」
ミクもまさか、こんなに暴れるのに、一向にそんな素振りを見せないことに困惑さえしていた。
彼が保有するSRカードを用いれば、人ひとり、いや何人いようと、力ずくで対処できてしまうのだ
ツトムはそんな彼女の問いに、まるで当たり前かのように振舞った。
「いや、そんなことしたら怪我しちゃうだろ! バーカ!」
ツトムは口は悪いが、すこぶる根は優しかった。
そんな彼にほんわかしつつ、ヤスタケは再度、頭を下げる。
「ツトム君、来てくれて本当にありがとう。君ほどの才能があれば、本当に心強いよ。もちろん、足手まといにならないように細心の注意を払う。俺のことは手駒だと思ってなんでも指示を出してくれ」
そんな姿を見て、ワカバもはっとして、頭を下げた。
道中、打ち合わせをしていたのだ。この【ダンジョンアタック】の
自身を打ち負かしたヤスタケに頭を下げられれば、ワカバはノーとは言えなかった。
「わ、私も! ツトムさんのダンジョン配信は何度も見て勉強させていただいてます! 今回はしっかりとそのご活躍を目に焼き付けたいと思ってます! 私にも、何でも言ってください! なんでもやります!」
ここまで、二人の人間に頭を下げられ、持ち上げられ、ツトム自身、悪い気はしない。
――だが、それとこれとは話が別だった。
「い・や・だ!」
ツトムは我が強かった。
それを見ていたミクは、何か考え、ふと、ツトムに耳打ちをする。
「ツトム様、ツトム様、ちょっといいですか」
「な、なんだよ。ええ?」
ごにょごにょと話すミクに耳を貸すツトムは、次第に、表情が怪しく曇る。
段々と顔が赤くなっていき、挙動もあたふたし出したのだった。
「わかった! わかった! もういい! やる! やるよ! これでいいだろ!?」
「わー! やったー! ツトム様、なんて男らしく逞しいのでしょう! 惚れ惚れしますっ! 私、勇敢で男らしい人が大好きですっ!」
「うう! クソックソッ! ヤスタケめぇ……!」
何を言われたのか。急に言葉を急転換し出したかと思えば、怒りの矛先はまた更なる憎悪でもってヤスタケに、向けられた。
困惑するが、しかし、彼の口から言質は取れた。
「ありがとう、ツトム君!」
「あ、ありがとうございます! よろしくお願いします!」
ヤスタケとワカバは頭を下げ、それを見たツトムはフン! とそっぽを向くのだった。
こうして、ダンジョンへ潜る三人パーティーが決定した。
話が終わったところを見越して、白神の里のスタッフがダンジョンの入り口まで案内する。
ダンジョンの近場までまずは車移動。そしてアスファルトが途切れる場所で停車し、徒歩での移動となる。
獣道を歩く自然の中は、目に見えないマイナスイオンをひしひしと感じられた。
そして、ついに到着。『白神山ダンジョン』の入り口だ。
それは、こんな自然豊かな所には場違いなまでの、西洋風な城門だった。
門は、重厚な重厚な金属製の両開き扉が開かれ、地下に続く暗闇の階段が口を開いて待っている。
「……ヤスタケ、お前が先に行くんだからな。次に僕。ワカバはすぐ後ろについてこいよ……」
ツトムの声は震えていた。
ヤスタケもワカバも、思わず身震いする。
――武者震いだ。
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