第34話 プロイデンベルクの最新鋭浮遊空母
明くる日、緊急の会議が招集された。
「議題は、プロイデンベルクの新造艦の浮遊空母のことである」
髪をオールバックにした初老の参謀が話を進める。
「艦名も依然として不明である」
海は二隻の浮遊空母撃沈の先鞭をつけたとして、少佐に昇級し末席で耳を傾けている。
「昨晩も、ゴブリンが爆撃され死傷者が出ている」
中央に鎮座しているマーガレットが難しそうな顔をしている。
「敵の作戦目標は存じ上げておりますか?」
戦闘騎隊の参謀が質問を投げかけるも「依然不明である」とにべもなく返された。
会議は長々と継続している。
「敵は夜に攻撃するが、昼は何処にいるのか」
「目下、捜索中であります」
情報参謀が言葉を濁す。
「カールの基地航空隊と連携しているそうですが」
「こちらの攻撃隊が向かうと、直掩隊が基地から来ているのは確認が取れている」
「では、攻撃隊を派遣するふりをして直掩隊を釣りだし、敵基地を叩けないのか」
「それは既に試みた……が、何処からともなく敵の直掩隊が来るのだ」
「それなら、攻撃の振りをして直掩隊を釣りだし、燃料切れで帰るころに襲撃をするというのは」
「まだ試していないが、やってみてもよさそうですね」
マーガレットが頷く。
「依然として、敵基地から無人機や戦爆連合が昼夜問わず来ているのは確かですので、何かしら対策を練らないと」
スチューザン市民も一日中断続的に続く攻撃に寝不足も相まって、口には出さないが不満や不安が溜まりいつ爆発してもおかしくない状況である。
刻々と時間が過ぎ去る。
段々とみなの口か重くなり無音の時間が増えてゆく。
「……」
会議はそこでお開きになった。
「隊長どうだった?」
スカーレットが気怠そうに聞いて来た。
「何も決まらず……だ」
「そうか」
「今日は疲れたので、寝る」
そのまま布団を被り目を閉じた。
(……)
翌日は大わらわだった。
なんでもロンダニアの王宮が爆撃され貴族を含む死傷者が多数出たとの事で、女王陛下より早急に浮遊空母を撃滅せよとのお達しが下ったのだ。
それを知った市民も拍手をもって迎え、軍としては何かしら戦果を上げなければいけない所まで追い詰められることになった。
「隊長、読むかい」
「何を?」
「新聞」
スカーレットが投げてよこした新聞を手に取ると、一面は女王陛下が撃滅令を出したこと、しばらく流し読みし後ろの方の紙面に入ると、三上の事が書かれていた。
「翔陽出身の天空騎士ミカミ、騎士として愛に殉ずる」
内容はハンナと三上の事を掘り下げて書かれており、感情のこもったかなりの名文である。
「プロパガンダってやつだろ」
スカーレットはテーブルの上に足を投げ出し、人差し指を天に掲げてイヤリングの中にそれを入れクルクルッと回していた。
「ハンサムな方でしたからね」
スカーレットと佐那の声を聞き流し、雑に折りたたんだ新聞をテーブルに投げ、なんとなく居心地の悪くなった部屋を後にした。
「あっ秋川少佐、会議だそうですよ」
スチューザンの斥候兵らしき人物に呼び止められ「おう、分かった」答えを渡した後に急いで会議室へ向かう。
「皆さま、お集りいただきありがとうございます」
一同を見回して、マーガレットは演説を始めた。
「女王陛下より、敵の浮遊空母ツェッペリンを撃沈せよとのご命令が下っております」
周囲ではざわざわと小さな話し声が広がった。
「ツェッペリンは日中はこちらの索敵範囲外、主に東の洋上で待機しているとの情報が入っています」
「そこに居座られるとメリアンとの航路が塞がれるだけではなく、南からくる輸送船団も被害にあいます」
諸将の間から通商破壊の一環かとの声が上がる。
「また、夜間の爆撃は市民のみなさんの軍隊や王室に対する不信を招きますので看破できません」
「ツェッペリンの出方により変わりますが、攻撃は明朝、離陸は夜間に行うと考えてください」
海は襲う場所で航続距離から割り出した行動範囲が分かり、逃げる前に攻撃すると理解した。
「今回は、貴族の使命として私が先陣を切ります」
力強く言い切るマーガレットに周りから不安そうな声が漏れる。
なにせいくつかの基地航空隊や三上が出撃して帰ってこれなかったのだから。
みな曇った顔やら苦い顔をしながら会議室から出てきた。
「どうしたものかな」
これから日のあるうちに寝て深夜に起きる生活をしなければならないだろう。
「えー、夜寝たぃー」
ケイトの不満げな声が辺りに響くと、まわりの天空騎士たちはその意味を簡単に理解した。
「しかたないだろ、相手は浮遊空母だ」
「スカーレットはがさつだから平気かもしれないけどぉー、私は育ちざかりなんだから」
「ああん、何が育ちざかりって? その生意気な口かぁ」
「はいはい、やめやめ」
ケイトとスカーレットが一触即発の空気を出すと、ダリーがすかさず仲裁した。
「ダリー成長したな」
海はダリーを眺めながら小さく褒めたたえた。
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