第29話 夜間爆撃

「敵浮遊空母発見――」

「御飯もまともに食べさせてくれないんですか」

 遅めの昼食をみなで取っていると、拡張機から敵空母の動向が流された。

「ちょっと内線かけるわ」

 海は素早く受話器を握ると整備士たちに魚雷の準備をお願いする。

「食事が終わり次第手伝いに行きます」

 食事を済ませて、急いで飛行場へ繰り出すと、すでに魚雷は騎の腹の中に収められて、いつでも出発出来る体制が整えられていた。

「すごい」

「手際がいいね」

 みなに褒められ整備兵たちは照れながら「あらかじめ準備を整えていましたから」と答えて、発動機に火を入れてくれた。

 ブルルと小刻みに揺れたかと思うとわずかな炎を後ろから吐き出し、まるでいつでも出れると発動機が語り掛けてくるようだった。

「護衛騎はいるのかな」

 周囲にはそれらしい騎はおらず、海たち四騎だけが、飛行所に鎮座していた。

「どうする、隊長」

「こちらイーストハンプネット、攻撃隊出撃」

「シロイドンより、敵艦へ向け飛行中」

 近くの基地から出撃の連絡が入り、それを聞いた海たちは同伴しようと出撃を決めた。

「秋川大尉以下四騎でます」

 飛行隊を見送ろうと、整備隊の面々は帽子やらタオルやらを振って「がんばれよー」と声援を送って元気づけてくれた。

「全騎、高度を千まで徐々に上げる」

「了解」

 敵は報告によると南西の海上で飛行中とのことだ。

「味方騎はどのあたりだ」

 敵の移動予測と味方騎の基地からの距離などを元に携帯地図を開いて、おおよその場所を特定する作業を始める。

「もう少し東寄りに向けよう」

「そうすると、大体この辺だな」

 進路を割り出し、そちらの方に向かって飛んでいくも……。

(おかしい、味方の航空隊がいない)

 そのうち、敵が居るはずの海域に着くも敵の影すら見当たらない。

「隊長、大丈夫ですか」

 流石にみなおかしいと気付いたのか、しきりに確認の連絡をよこした。

「大丈夫……のはず」

 海も段々と自信を失い海上を彷徨っていると、魔力の事が頭をよぎり視線をメーターへと滑らせた。

(魔力が基地に戻るには心もとないが……)

「すまないが、これ以上は無理だからいったん帰還する」

 そう言って針路をぐっと百八十度変えて、戻り始めた。

「隊長、魔力が……」

 ダリーの心配そうな声を聞いて、皆に残りの魔力残量を確認する。

「計算上は、大丈夫なはずだが、とりあえず陸地が見える針路を取ろう」

「わかりました」

 みな安堵の声を上げて北北東に向け飛び始めた。

 しばらく飛んでいると、急に天気が崩れ出して辺り一面を黒い雲が覆いかぶり視界がかなり悪化した。

 みな、予想していなかった雨に打たれて不安な心持で飛行しているのだろうか、誰一人口を開かない。

「あっ陸地です」

 嬉しそうな夏子の声に皆が安堵の反応をし、陸地の上に航空騎が到着したところで東へ針路を取る。

 空はどんどん悪化し、雨によって騎体が冷やされ肌寒い。

 耐えて飛行していると、見知った建物群が目に飛び込んできた。

「ポートマルだ」

 町のはずれに飛行場があったことを思い出す。

 海はその飛行場に着陸しようと決断して、通信のスイッチを入れた。

 飛行場から小さな魔灯が点灯されると、まず海が体勢を整え着陸を始める。

 コンクリートに接地すると勢いを消しきれなかったのか軽くバウンドする。

「うっ止まってくれよ」

 ブレーキをかけるも中々止まらず、冷汗をかくも、甲板が小さいパーセフォニーで訓練していたおかげか徐々にスピードが落ちて止まることができた。

 騎を飛行場の端まで移動させ、残りの騎が着地するのを待っていると、飛行場の衛兵が駆けつけてきた。

「どうなされました」

「この激しい雨で危険を感じましてね」

「ご無事でなによりです」

 そのようなやり取りをすると衛兵は管制塔に向かって移動していった。

「よし、みんな無事に着地出来たな」

 これまでの経験で、みなレベルが上がっているのを改めて確認できた。

 管制塔へ移動すると、そこの担当者からすでに日が落ちていることを伝えられた。

「では、出発は明日とします」

「それがよいでしょう」

「できれば、蓄魔石の補充をお願いしたいのですが」

「承知しました」

 そのようなやりとりの後、管制塔の担当者の好意で、街はずれにある小さな宿を用意してくれた。

 基地にポートマルに着陸したこと、一晩泊まることを伝えて電話を切った。

「ふう、生き返る」

「本当に、助かります」

 宿に来るまでの間に濡れネズミとなった海たちは、宿の人たちが用意してくれたお風呂を頂き、一息つくことができた。

「今日は、すまなかった」

「本当ですよ、隊長」

「……謝った人に言いすぎるのは良くない」

 佐那たちにからかわれながら窓の外に視線を移すと、薄ボンヤリと月明りが見えるまで天候が回復していた。

「明日は、帰れるかな」

 出発に備え横になろうとした矢先だった。

「敵襲ぅぅぅ」

 唐突な声で瞬時に目が冴えると宿から出た。

 町行く人々は真っ暗な中、取るもとりあえず防空壕へ早足に移動していた。

 海たちは防空壕の位置を知らないためオロオロしていると、町の中央辺りから爆発音とともに激しい爆発が巻き起こった。

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