第15話 あまりにも予期せぬ遭遇をしてしまう男(30歳)


いや、嘘だろ。何でここに...


俺は今、喫茶店の二人掛けのテーブル席。

七瀬さんからのlineのトーク画面を開いたと同時に、まさかではあるが俺の目には、とある一人の女性の姿が映り込む。


そして、メニュー表ですぐさま自分の顔を隠そうと思ったと同時に、既に俺は店内の大きな窓から見える、外を歩くその女性と目が合って...


何で...。

相変らず、第六感でもあるのか、あの女...。

そう言えば、今日の朝の占いでは俺の星座は最下位。

『予期せぬ出逢いがあるかも』なんてことをアナウンサーさんが言っていた記憶がぼんやりと蘇ってきたが...


あれって、本当に当たってしまうのかよ...。


とりあえず、今、そんなことを考えている俺の視界に映るのは、ニヤニヤとした笑みを浮かべて静かに店内へ入ってくる様子の女性の姿。


「.....」


何だろう。こんな表現をするのは悔しくもあるが、一流の女優並みに整った顔立ち、そして高身長でモデルの様なプロポーションをした彼女が、その長くて綺麗な黒髪を靡かせながら店内に入ってきた途端、そのオーラからだろうか、既に周りの客たちの視線が一挙に彼女へと引き寄せられている光景が俺の目には広がっている。


そして、気が付けば、その女性は何を言わずとも当たり前のように俺のテーブルの前の席に腰を下ろす。


「すみません。お兄さん。フフッ、ノンカフェイン珈琲一つお願いします」


俺の目には、いかにも外向きの笑顔を浮かべる彼女と、その彼女の笑顔にコロっと鼻の下を伸ばしながら注文を受ける大学生ぐらいの男の店員の姿...。



いや、最悪だ...。本当に



「フフッ、奇遇すぎるわね。優太」



奇遇というか、不遇すぎる。



「一体、こんなところで何してんだよ」



そして今、俺の前に座っている女性の名は旧姓、




そう。俺のだ...。




「はぁ...。アンタこそ、一体こんなところで平日から独り虚しく何をぼーっとしてんのよ」



そして、目の前には机の下でその長い脚を組みながら俺にそう言って、偉そうに口を開いてくる彼女。


「別にいいだろ。仕事終わりにゆったりとくつろいでいるだけだよ」


質問を質問で返すなとあれだけ昔は言ってきたくせに、あいかわらず自分はいいのかよ。なんてことを思ってしまうが、当然口には出さない。いや、出せない。


「はぁ...。アンタもう30歳でしょ。彼女も作らずにお姉ちゃんは悲しい」


そして...これ。


もしかして、以前にlineが送られてきて無視をしたあの話か...?


そう。そもそも姉貴がこの辺りに出没すること自体がおかしい。しかもこの時間に。

と言うことは、やはり俺に何か面倒くさい話を持って...


「あぁ、一応言っておくけど。今日はこの辺りに住んでいる昔の後輩の誕生日祝いに、ご飯に一緒に行ってきただけだから」


そして、相変わらずこの女はエスパーだろうか...。

俺の表情からだろうか、考えていたことを意図も簡単に当てられてしまった様子...。


あの旦那さんに限って絶対にそんなことはないとは思うが、絶対にこの女の傍で浮気なんてできたものではないだろう。


「あ!そう言えばさぁ。この前のlineの返事。お姉ちゃん、まだアンタから貰ってないんだけど。アンタが私のことを無視するなんてこと、まさかないわよねー」


そして、俺は俺で嫌な予感が当たったようだ。

やはりあの話を出して来やがった...。


「本当に一回ぐらい会ってみなって。フフッ、私に似て美人で性格の良い、アンタにはもったいなさすぎるぐらいの後輩だから。何かアンタの話したらめちゃくちゃ前向きになっちゃってさ。フフフッ、まさか断って、アンタが私に恥をかかせるわけなんてないわよね。」


姉貴に似て美人で性格の良い女?


いや、あらためて思うけど、それが本当なら....



めちゃくそ地雷じゃねぇか。



でも、今思えば、姉貴の後輩...。ってことは、俺の知っている女性とかだったりするのか?


そして何故か、ふと俺の脳裏には今、姉貴のキャバ嬢時代の後輩である美優紀ちゃんの姿が浮かんだが...それは絶対にないな。


そう。あの子は姉貴と違って本当に性格が良かったから。

確かに物凄く美人であった記憶があるが、姉貴と違って綺麗系というよりは可愛い系だし。姉貴と違って天然で癒し系だったし。何と言うか、あのギラギラとした女性の集まる業界には正直似合っていないタイプの純粋すぎる擦れてない女性だった。


何に対しても一生懸命で素直、何と言うか、小さな子から絶対に人気がでるであろう保育園の先生になれそうな母性溢れる雰囲気の女の子だった記憶がある。まさに、いいお嫁さんになりそうな女性とも言えようか。


だからこそ、彼女でないことは確かだろう。

姉貴とは似ても似つかないからな。


ハハ、姉貴がチーターなら、彼女はウサギさん。


「.....」


とは言え、彼女も何だかんだであの激戦区でナンバー入りしていたような女性だ。

もし、あれが全て計算尽くされたキャラだったなんて言われてしまえば、俺はもう女性という生き物を信じることはできなくなることだろう。


「......」


まぁ、とにもかくにも答えは一つ。


姉貴と似た女性と言われた時点で全力拒否は確定している。


あの聖人のような旦那さんのおかげで、この閻魔のような姉貴からようやく解放されたと思ったら、何が楽しくてまた姉貴みたいな奴と...。


絶対に嫌だ。


それに、向こうも実物の俺を見た時点で絶対に全力拒否してくるはずだ。


「とりあえず、近いうちに場をセッティングするから。いつにしよっかなー。あの子は今、保育え「いや、ちょっと待て」


そう。何で勝手に話を進める。


「は? 何で、別にあんた常に予定が無いタイプの人間じゃん」

「いや、あるから」

「例えば? 私が可哀そうなアンタに可愛い女の子を紹介してあげるって言っているんだよ? 何の文句があるの?こんな優しいお姉ちゃん他にいないよ?」


そして、駄目だ。このままだと確実に押し切られてしまう。

どうする。どうすればいい、俺。


「彼女だって普通にいないでしょ? ほら、何の問題もないじゃん。はい、けって「いや、い、いるから」

「は?」

「いや、いるから...」


そして、ヤバいな。これはヤバい。


「.....」


どうやら、この状況を何とかして打破しなければならないと焦りすぎた俺の口が、勝手に本来とは異なる事実を目の前の彼女に伝えてしまったようだ...。


そして、目の前にはそんな俺の目をじーっと静かに凝視してくる姉貴の姿。


「.....」


ヤバい。ヤバい。本当にヤバい。

この、心臓が鷲掴みされるような姉貴の視線。久しぶりすぎる。


どうする。逃げるか?

いや、当たり前だが逃げようがない。


そして、そんなバカなことを考えていると、目の前の姉貴の口が静かに開く光景...。



「ふーん、じゃあ今度、そうだなー。来週の土日あたりにでも、その女の子を私の前に連れてきてみなよ。アンタにふさわしい女かどうか、私が見定めてあげる。フフッ、嘘じゃないなら簡単な話でしょ?」



「.....」

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