第27話 特定しますた!
「結構、エグイことになってきたかも」
ハナコが血相を変えてスマホを突きつけてくる。
そこには、昨日の今日で立ち上げられた、まとめサイトの記事がデカデカと表示されていた。
『【速報】人気小学生チューバー、過激派カルト信者に支持されていた』
大きく真っ赤に書かれたタイトルが、わたしの目を突きさした。
記事の中身は、茨木童子の過激なコメントを面白おかしくまとめたものだったものだ。他にも根も葉もない情報まで次々と追記されている。
『関係者によると、彼女の保護者(叔父)も、日頃から近所で奇行を繰り返しているとの情報も……』
「おじさんまで!」
放送室に集まっていた仲間たちが、固唾をのんでスマホを覗き込む。
チャンネルのコメント欄は、地獄の釜が開いたような有様だった。
『わたしちゃんを信じろ!』
『いや、あのイバラキってやつはヤバすぎ』
『ひかり様の言う通り、全部ヤラセだったんだよ!』
『ヤラセでもガチでも、面白ければいいのだ!』
茨木童子に続こうとする者、神宮寺ひかりを支持する者、純粋にわたしを応援してくれていたファン、そしてただ騒ぎたいだけのアンチ。それぞれの主張がぶつかり合い、画面の上で醜い代理戦争を繰り広げている 。
SNSのトレンドには、昨日までの好意的なタグは見る影もない。「#わたしちゃんカルト説」「#イバラキって何者」といった、不穏なハッシュタグがすごい勢いで増えていく。
なにより、わたしの心を一番えぐったのは、リアルタイムで更新されるアナリティクスの画面だった。チャンネル登録者数を示すグラフが、初めて、はっきりと右肩下がりに線を引いている。ここで終わりだとでも言うように。
昨日まで「リーダー!」と慕ってくれたはずのファンからの「チャンネル登録解除しました。正直怖すぎます」というコメントが、わたしの胸に深く突き刺さる。
「これが、有名税……なの?」
◇
翌日、学校へ向かう足は、鉛みたいに重かった。お地蔵が何か話しかけてきたけど、覚えていない。
教室のドアを開けた瞬間、空気が変わったのが分かった。昨日まで「動画見たよ!」と気さくに話しかけてきたクラスメイトたちが、遠巻きにわたしを見て、ヒソヒソと囁き合っている。
「わたしちゃん、なんかヤバい信者がいるらしいよ」
「うちの親が、あんまり関わっちゃダメだって……」
給食の時間、わたしの班だけが不自然に静まり返っていた。誰もわたしと目を合わせようとしない。重苦しい沈黙が、スプーンの当たる音をいやに大きく響かせた。
落ち込むわたしを、神宮寺ひかりが冷たい視線で一瞥する。「自業自得です」と、そんな心の声が、はっきりと聞こえた。
放課後。
わたしは一人、とぼとぼと旧校舎の廊下を歩いていた。仲間たちがいるはずの秘密基地にさえ、なんとなく足が向かない。
(わたしのせいだ……。わたしが調子に乗ったから、みんなに変なウワサが立って、怖がらせて……もう、リーダー失格だ)
堪えきれなくなった涙が、ぽろりと床に落ちる。
「はあ~あ、子どもなんだから」
後ろから、呆れたような声がした。ハナコだった。いつもの軽い口調とは裏腹に、その目には心配の色が浮かんでいる。
「一人で抱えんなっつーの。ずっ友だろ、ウチら」
その言葉に、堪えていたものが一気に溢れ出した。悲しさ、悔しさ、そして何より、たった一人でも味方でいてくれる友達の優しさ。それらがごちゃ混ぜになって、嗚咽になった。
しゃくりあげて泣くわたしの背中を、ハナコは何も言わずにさすってくれている。
しばらくして、ようやく涙が止まったわたしは、ハナコに「ありがとう」と告げて、ぐっと顔を上げた。
「このままじゃ終われないよね。まずはあの暴走ファン……イバラキを、なんとかしないと!」
ハナコは、待ってましたとばかりにニヤリと笑うと、スマホを見せてくる。
「おっけおっけ。話が早くて助かるわ。SNSと過去のコメントからIPアドレス辿って、とっくに住所特定してあっから。おら行くぞ、わたっチ」
画面には、茨木童子が住んでいるらしい、古びたアパートの地図が表示されていた。
「行くって……ええええーっ!?」
わたしの絶叫とハナコの笑い声が、夕暮れの校舎に響き渡った。
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