第8話:雪の集落

 バトルロイヤル開始から約30分後、フィールドの東側では中学3年生の4級異能力者、炎崎ほのおざき ゆうが山道を歩いていた。


「お、誰かと思ったら強弥くんじゃないか」


 同じ中学校の1つ下の後輩で4級異能力者の後藤ごとう 強弥きょうやを発見した。


「逃げよう」

「おい待てやコラ」

「冗談ですって。ていうか序盤で会うの初めてですね」


 数ヶ月前にデスゲーマーの登録をしてから一緒にデスゲームに参加するようになっていた炎崎と後藤だったが、片方が序盤で脱落したり開始地点が遠かったりと、遭遇することがほとんど無かった。


「もちろん組むだろ? 今回強敵多そうだし」

「組みますよ。僕たちの複合異能力も実戦で使ってみたいですしね」

「じゃ、早速この先の集落行こうか。隠れる場所には困らなさそうだし」

「あー、集落ですか」


 無人島の東側にはフィールド上で最大の集落がある。前半はそこで潜伏することを提案する炎崎に対して、後藤は微妙な反応を示す。


「どしたん?」

「直接見に行った方が早いですね」


 後藤に連れられて、炎崎は集落の近くの山頂に辿り着いた


「何だよ……これ」


 驚いたことに、集落とその周りの平地は厚い雪に覆われていた。


寒田かんだ 直紀なおき、脱落。残り28名」


 ここで、他の参加者が死亡したアナウンスが入った。


「やっと2人? めっちゃペース遅くない?」

「ですよね。冬海とか暴川とか、もう2〜3キルくらいしてても良い時間だと思うんだけど」


 雪に覆われた集落や謎のペースの遅さに困惑しつつも、後藤は今後の立ち回りを考える。


「とりあえず近くの山にでも隠れましょうか。他の参加者が集落に隠れようとして近くに来る可能性もありますし」

「そうだな」


 集落に入れないことを確認した炎崎と後藤は、ひとまず近くの山に潜伏することにした。








「ああくっそ、あの光使い接近戦もできるのかよ」


 フィールド上で死亡し、控え室に転送された寒田 直紀は周囲を見回す。


(中央大陸組だと俺が最下位かよ。まあ貸し切り状態だから悪くないんだけどさ)


 ロッカーからスマホを取り出し、モニターの目の前にある長椅子に座る。


「?」


 ちょうど誰かから電話が掛かってきた。

 

「……もしもし」

「はっっっや、」

「うるせぇよ」

「今からでも管理室来る?」

「要らん。今日は参加者として来てんだ」

「真面目だねぇ」


 電話を掛けてきたのは今回のバトルロイヤルの運営スタッフの1人で寒田の従姉妹である虹川にじかわ 彩葉いろはだった。彼女は異能力「治癒」によって死亡した参加者の蘇生を担当している。


「てか仕事中だろ。呑気に電話してて良いのかよ」

「大丈夫大丈夫。今回めっちゃペース遅くて暇だし」


 寒田は控え室のモニターで現在の成績を確認する。驚いたことに、現時点で上位の参加者たちは全員0キルだった。


(事前予想1位の大橋、2位の冬海、3位の重影、4位の東条、5位の暴川。開始から30分以上経ってるのに上位5人が1キルもしないなんてあり得るのか。しかも……)


 モニターの画面を切り替えると、各参加者の様子を確認することができる。


 冬海 凍次はフィールド西側の森の中をものすごいスピードで進んでいる。重影 翔はフィールド南側にある川の辺りで途方に暮れている。2人とも他の参加者が見つからないのか、焦りの表情が浮かんでいる。


(共闘してたり同じ場所に留まってるならまだしも、単独で積極的に動き回ってる連中まで0キルか。フィールドが普段より多少広いことを加味しても違和感あるな。一体何が起きてるんだ)


「あ、1人死ぬ。ごめん一旦切るね」

「え? おい」


 一方的に電話を切られて悪態をつきつつ、寒田はモニターを操作して視点を動かす。


「うわ、こいつら」


 フィールド中央の少し北寄りの地点に、5人の参加者たちが集まっているのが見えた。その地点に向かって周りのエリアからも数人の参加者が歩いて来ていた。


「大人数でチームを組んで優勝候補狩りでもする気なのか。これは見ものだな」

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