第二十四話「夜襲、そして対峙」
街道沿いの小さな宿場町で一泊し、護衛二日目は夜営となった。馬車は街道を外れた森の中へ停められ、ランタンの光が頼りない円を描いている。当番制の不寝番は、最初の見張りとしてクレス、ラディ、リンジーの三人だった。
焚火の番をしながら、リンジーは兄のクレスにこっそり尋ねた。
「お兄ちゃん、見張りって不安だね……。不安だから見張るんだろうけど、もし盗賊が襲ってきらどうしよう……?」
「大丈夫さ。俺たちだってダンジョンで頑張って強くなったじゃないか。それに、ナオさんたちもいるんだから、心配ないさ」
クレスはそう言って、妹を安心させようとした。しかし、その言葉には、どこか彼自身の不安も滲んでいた。ラディもまた、緊張した面持ちで周囲を警戒している。ダンジョンでの魔物討伐とは違う、人対人の戦いに、彼らは皆、慣れていなかった。
しばらくして、森の奥からかすかな物音が聞こえた。
「……誰か、いる」
クレスが小声で告げる。その瞬間、五つの影が木々の間から姿を現した。彼らはボロボロの革鎧を身につけ、錆びた剣や斧を手にしている。その目には、獲物を前にした飢えた獣のような光が宿っていた。
「見張りか。運がなかったな、ガキども。大人しくしているなら、命までは取らねぇぜ」
盗賊の一人がそう言って、下卑た笑いを浮かべた。
「っ……!」
クレスはすぐさま盾を構え、ラディも短剣を握りしめるが、その手は小刻みに震えている。一方、リンジーは恐怖に体がすくみ、杖を構えることすらできずにいた。彼女たちの知っている冒険は、あくまでダンジョンでの魔物討伐だ。生きた人間が、自分たちを殺そうと迫ってくる恐怖は、想像をはるかに超えていた。
「おい、どうした?怖くて動けねえのか?」
盗賊たちがじりじりと距離を詰めてくる。リンジーは絶望的な状況に、叫ぶように声を上げた。
「ナオさん! シエルさん! フィオさーん!」
その叫び声は、夜の森に響き渡った。
馬車の中で眠っていたナオは、その声に飛び起きた。彼はすぐさま事態を察し、剣を手に馬車の扉を開ける。隣の馬車からはシエルとフィオも身構えて現れた。
「……来たか」
フィオが冷静にそう呟く。彼女の目はすでに、暗闇の中で盗賊たちの位置を正確に捉えていた。
「クレス! リンジー! ラディ! 無事か!?」
ナオが声をかけると、三人は安堵の表情を見せる。しかし、その足は依然として震えていた。
五人の盗賊と六人の冒険者が、互いの武器を構え、ランタンの光の下で対峙する。静寂が場を支配し、ただ焚火の燃える音だけが聞こえていた。これから始まる戦いは、ダンジョンでのそれとは違う。それは、血と命のやりとりだ。誰もが、その不慣れな戦いの始まりに、息をのんでいた。
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