第2話 抽出口の洗浄マニュアル

「本日より、抽出口の洗浄業務を行ってもらう」

 熊田課長は、今日もスーツ姿で筋肉がギチギチに詰まっていた。


 「……抽出口……?」


 「初日だしな。君はまだ知らないだろう」

 課長は端末を操作し、ホログラム画面を呼び出す。


 画面に映ったのは、人体図。

 しかも男体。それも全裸。いや、これ……よく見ると……


 「これ……俺じゃないですか!?」


 「社内では全社員、性的濃度データと立体スキャンを取得している」

 「えっちょっと待ってください、僕、全裸スキャンした記憶ないんですけど!?」


 「寝てる間だ」

 「寝てる間に何されてんだ俺!?」





 画面がズームインする。

 真琴の尻――いや、「抽出口」が強調表示されていた。


 ※抽出口(ちゅうしゅつこう):

  個体ごとの性エネルギーの排出部位。清潔な状態を保ち、柔軟性・受容力の測定と維持を行う必要がある。

 毎朝、専属上司によるメンテナンスが義務化されている。





 「……これを、課長がやるんですか」


 「業務だ」


 「本気で言ってる!?課長、正気ですか!?」


 「正気のまま、君の抽出口を洗う」


 真顔すぎて怖い。怖いけど……

 課長の指は、なぜかゴム手袋を装着しながら、ローションの準備までしている。





 「まず、軽く触診を行う。拒絶反応の有無を確認し……」


 「い、いやあの、課長!?これって完全にヤバいですって!!」


 「俺の指は医療用と同じ消毒済み。ラテックス100%。安全だ」

 「そういう問題じゃないですってばァァ!!」





 ヌチュ……っ


 指が、当たった。


 「――っ!」


 ゾワリと背筋を走る感覚。

 今まで感じたことのない、鋭い刺激と微かな温かさ。


 「反応、良好だな」

 課長が真顔でメモを取っている。やめてくれ。そんな職員みたいな対応。





 「この反応なら、明日からの射精訓練もスムーズに進むだろう」


 「待って!?何の訓練って言いました今!?」


 「言ってない」


 「言いました!?」





 こうして、俺の「職場としての身体」が、

 本格的に稼働を始めたのだった――。








つづく


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