第14話 気分転換

 お金を持ち合わせていない私たちはカフェに入ることもできず、近くの小さな公園でブランコに乗って話を続けた。さすが十八時、誰もいない。


「アルトはどう?」


「問題無し。しいて言うなら、大人しすぎて会話が盛り上がらないってとこかな」


「あ、それ分かる。田尻君がキャラ強で他の二人とあまり会話できてないかも」


「入って楽しくなかったら早々に辞める子いるから、最初が肝心だよね」


 一年生の頃は先輩に付いていけば全部なんとかなったから、こういう時の対処法がいまいち分からない。とりあえず、一人でいたらさり気なく声をかける、でも無理強いはしないというところで落ち着いた。


「去年されて嬉しかったことをすればいいよね」

「それでいいと思う」


 先輩の経験は無いけれども、後輩だった経験はある。一年生の頃を思い出して行動することにした。


 一つ気になるとすれば、去年は私たちみんな仲が良くて、たいした問題が起きなかったことだ。なので、少人数なのにその中でグループが出来てしまうとか、誰かが誰かを攻撃することもなかった。それは今も続いている。


 何事も上手くいくのはとても良いことだ。でも、そうすると、何か起きた時にすぐ解決法を見つけることができない。


 今が良い機会なのかもしれない。まだ小さな凸凹を、小さいうちになだらかにする。


 それは凸凹を否定するわけじゃなくて、なだらかにすべき場面があると伝えること。個人の個性を否定してはいけない。難しいなぁ。


「あ、そろそろ帰ろう。ママが心配する」

「私も」


 真奈美が公園の時計を見て立ち上がる。もう夕食の時間だ。お母さんが心配して外に出ちゃったら困る。

 こういう時スマートフォンがあれば便利だけど、学校には持っていっちゃいけないので仕方がない。


 友だちなんかは学校禁止なのが辛くて、帰宅してからずっとスマホゲームしてるって言っていた。私はあまり使わないな。友だちと連絡取り合うかたまにゲームをしてみるくらいで、家でも合唱のことをしていることが多いから。


「じゃあね」

「また明日」


 家の近くで分かれる。小学校の学区はわりと広いけれど真奈美の家とは近いので、帰り道暗くなっても安心。今の時期はよくても、冬になると十七時で暗くなってくるから。


「ただいま」

「おかえり。遅かったね」

「真奈美と公園で話してた」

「そう。もうすぐご飯だよ」


 真奈美といたと言えば、お母さんは何も言わない。付き合いが長いだけあって信頼されている。


 すぐにお父さんも帰ってきて、三人そろっての夕食になった。


「ねえ、聞いて。自由曲決まったの」

「それはよかったね。練習頑張って」

「うん、頑張る」

「無理はしないで」


 話が盛り上がるといったところで、横で聞いていたお母さんに続きは食事が終わってからにしようと窘められた。うう、ごめんなさい。嬉しいことがあると声を大きくなっちゃうの、なかなか直らないや。


 その代わり、終わってからはお父さんもお母さんも私の話を聞いてくれた。これ、一人っ子の特権かも。小さい頃は遊び相手が家にいなくてつまらないと思ったこともあったけど、お母さんが一緒にお人形ごっこをしてくれたし、ピアノを習いたいと言えばすぐ教室を見つけてくれた。


 まだ十三歳だけど、沢山良くしてくれた実感がある。大人になってお給料もらえたら、一番に二人に何かプレゼントするんだ。


 とりあえず今の私には出来ることは、健康で、勉強や部活を一生懸命やることだ。


 そして、笑顔で卒業して高校に入学すること。お父さん、お母さん、私を見ていてね。


「さあ、やるぞ」

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