第11話 「口腔帝国からの刺客!セラミック暗殺部隊、参上」

 事件は、夜中の診察室で起きた。


 俺が次の日のカルテを整理していると、

 診察椅子に「何か」が座っていた。


 「……予約、入ってましたっけ?」


 返事はない。

 ライトをつけると、そこにいたのは――


 全身セラミック装甲の謎の男だった。


 


 「我は口腔帝国・セラミック派の刺客、クラウン・スレイヤー」


 


 ぷる美がプルプル震えて尋ねる。


 「なにその、名前からして銀歯キラー感すごいんですけどぉ♡」


 


 クラウン・スレイヤーは口を開くと、

 中には完璧すぎる白い歯列が輝いていた。

 ただし、一本だけ銀歯が入っている。


 「銀歯……ありますよね?」

 「……これは、呪いの証だ」


 


 彼の話によると、口腔帝国は

 - 金歯派:富豪貴族

 - セラミック派:エリート医師団

- 銀歯派:庶民階級

 に分かれ、長年争っているらしい。


 そして最近、銀歯アマルガムの呪いが暴走し、

帝国内部が混乱しているという。


 


 「この世界で銀歯を外し、セラミックを普及させる使命が、我らセラミック派に課せられている」

 「いや、こっちは異世界なんで勝手に改革しないでもらえます?」


 


 その瞬間、診察室のドアがバァンと開いた。


 「センセ!今日こそ私の歯列矯正をお願いしますわ!」

 「センセ〜!口臭チェックしよ♡」

 「センセ!血吸っていい……じゃなくて、八重歯磨いて♡」


 エルフ姫、オーガ姫、吸血鬼リリスが同時に乱入。


 


 クラウン・スレイヤーがヒロインズを睨みつける。


 「そこにいる者ども……銀歯はあるか」


 ルアナが青ざめて口を押さえた。


 「……わ、私、一本……」


 ビュンッ!!

 クラウン・スレイヤーのセラミックブレードがきらめく。


 


 「センセ〜♡助けてえぇぇぇぇ!!」

 「このままじゃルアナの奥歯が抜かれちゃうよぉ♡」


 


 俺は決意した。


 「クラウン・スレイヤー、抜歯は俺がやる。

 だけど患者に無断でやるな。それが俺のポリシーだ!」


 


 睨み合う俺とセラミック刺客。

 診察室が静まり返ったそのとき、ドラゴン竜王ヴァルグロスが

 天井から顔を突っ込んで叫んだ。


 「センセ!親知らずの穴に食べカス詰まったぁぁぁぁ!!」


 


 ……空気ぶち壊しである。


 


 クラウン・スレイヤーはしばし沈黙し、

 そのまま診察券を一枚だけ机に置いて言った。


 「……次回予約を入れておく」


 そう言い残して、窓から夜の闇に消えた。





つづく

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