第19話
「マリー様からそんな招待が…。」
マリー様とは、この前参加したパーティーで知り合った。
彼女は私の事を邪険に思っていないようで、手紙を書いて文通したり、私と仲良くしてくれている。
「ルチェット様は最近忙しいですよね?だから疲れているように見えて…」
リメアは私のことをよくわかってる。
実際疲れてます。
それにしても、お茶会かぁ。
私何話せばいいのか分からないけど、そういうのは場の雰囲気で乗り切れるものなのかな。
私は仕事の書類を一通り片付けてから、リメアの持っている招待状を受け取る。
「行ってみることにする。リメア、ありがとう。」
「はい!当日はとびきり可愛らしく仕上げますので!」
「ほどほどにね…。」
招待状を渡すことが出来たので、リメアはメイドの業務へ戻っていった。
私は招待状を開けて中身を一通り読んだ。
いつも通り丁寧な字で書かれていて、読みやすい。
私は折れないように丁寧に招待状を元に戻して、一週間後のお茶会を楽しみにしながら仕事に戻った。
毎日激務をこなしていたら一週間はあっという間に過ぎて、とうとうお茶会の日がやって来た。
私は朝起きて軽く食事を摂り、ディアナさんに仕立ててもらったお気に入りのドレスを着て、リメアに化粧をしてもらう。
初めてのお茶会にわくわくしながら目を瞑っていると、化粧が終わったようでリメアが声をかけてくれた。
目を開けると綺麗な化粧の施された顔が鏡に映っていた。
私は準備が一通り終わったので、外で待機していた馬車に乗り込んで出発する。
「リメア、行ってくるね。」
「楽しんで来てくださいね!」
窓から手を振ると、リメアは手を振り返してくれた。
リメアが見えなくなった所でちゃんと座り直して、今日のお茶会はどんななのか想像する。
雨が降っているから温室でのお茶会らしいんだけど、きっと公爵邸とは違う花が咲いていて綺麗なんだろうな。
あ、出されるお菓子は何だろう。
食べたことの無いものかな。
紅茶もどんな味か楽しみだなぁ。
そんな事を延々と考えていたら、いつの間にかマリー様のお屋敷に着いていた。
御者が馬車の扉を開けると、マリー様が出迎えてくれた。
「公爵夫人、今日はいらしてくれてありがとうございます。」
「ルチェットでいいですよ、マリー様。今日は招待してくれてありがとうございます。」
「私のことも、マリーと呼んでください。さぁ、皆さんが待ってますよ。」
「ありがとうございます、えっと、マリーさん!」
私はマリーさんの後についていって歩く。
来たことのないお屋敷に目をキラキラさせていると、目の前に大きなガラス張りの建物が建っていて、思わずわぁ…と感激の声を出してしまった。
「ふふ、自慢の温室なんです。」
マリーさんは得意げにそう言って、温室の扉を開ける。
温室は心地よい温度で、居心地の良さに欠伸が出そうになったけれど何とか我慢した。
私が案内された席に着くと、マリーさんが始まりの言葉を言う。
「皆さん、集まっていただきありがとうございます。今日はぜひ楽しみましょうね!」
私や他の令嬢が拍手をする。
そして、マリーさんのお屋敷のメイドさん達が一斉に動き始めた。
テキパキと紅茶とお菓子の準備をする様子は見ていてかっこいいなと感じる。
やっぱりメイドさんは色んなことが出来て凄い。
と、感心しているのも束の間で、私は沢山の令嬢から質問されて混乱する羽目になった。
「公爵夫人、公爵様とはどうなんですか?」
「大切にされてますよね、パーティーの時も夫人の側を離れませんものね。」
「夫人は公爵様のことどう思っているのですか?」
私の様子をみかねたマリーさんが皆を静まらせてくれた。
令嬢達は私の発言をドキドキしながら待っている。
「…私は、レアンのことが好きです。でも、私は彼に相応しいのか、側にいてもいいのか考えてしまうんです。それで、この気持ちを伝えてもいいのか…」
私がそう話すと、辺りがしん…と静まった後に令嬢達の黄色い悲鳴が上がった。
「きゃあ!夫人はそんな事を考えてらしたのね!」
「大丈夫ですわ!私から見たら公爵様と夫人はとってもお似合いですの!」
「そうそう、そうですわ!恋に悩みは付き物ですもの!」
令嬢達は恋愛の話が好きなのか、私のちょっとした悩みにも興奮した様子でアドバイスしてくれている。
「あんなに溺愛されてますもの、夫人から好意を伝えたらそれはもう喜ばれます!」
一人の令嬢がそう言った。
本当に喜ぶかな。
私はレアンの事が好きで、レアンの気持ちに応えたい。
よし、決めた。
「レアンが魔物討伐から帰ってきたら、気持ちを伝えてみます!皆さん、ありがとうございます。」
「頑張って下さい!」
「ドキドキが止まらないわ〜!」
皆がそれぞれ応援してくれている。
何だかとても嬉しい。
ようやく話がまとまって興奮も冷めてきた時、温室を見たくて周りをキョロキョロする。
すると、とある一人の令嬢の腰から黒いモヤのようなものが出ていた。
私は目を擦ってもう一度見る。
やはり、黒いモヤがある。
私は遂に疲労で幻覚まで見え始めたのかな。
しかし、そんな考えは一瞬で消え去った。
黒いモヤの令嬢は、周りを気にしながらモヤを取り出した。
それは何か液体の入った小さな瓶で、紅茶の一つに液体を入れた。
私はあやしく思ってその令嬢へ近づく。
「今、何を入れたんですか?」
「えっ……何のことですか…!?」
令嬢はとぼけているけれど、私には何故か見える。
液体の入った紅茶に黒いモヤがかかっていた。
私は令嬢の腰辺りを探る。
令嬢は抵抗したが関係ない、危険が皆に及ぶ方がもっといけない。
すると、先程の小瓶が出てきて、花や毒に詳しいマリーさんに見せてみた。
「これ…きっと、牛乳です。ウシはマルバフジバカマを好んで食べるんです。ミルクに死に至る程の毒が混じるので危険です。」
「……貴女、名前は?」
「ひっ…私は…カリン…です…」
「どうしてこんなことしたの?」
私はカリン様に問いかける。すると、彼女は私にとって衝撃的な発言をした。
「ロザリー様がやれと……」
「ロザリー様が…?」
ロザリー様はあのお披露目パーティーの後も、出会う度に嫌味を言ってきたりしてきたけれど、危害は与えてこなかった。
だから少し安心していたのに、こんなことを指示するなんて。
「カリン様、貴女のしようとした事は巻き戻しの出来ない最悪な事です。まずはそれを分かって下さい。」
「ごめんなさい…私の家は、ロザリー様の家からお金を借りていて……ロザリー様の言うことを聞くしかなくて…!ごめんなさい…!」
よかった、煽ったら全部自白してくれた。
ロザリー様の名前を言った瞬間に怯えていたから、きっと何かあると思って煽ったのだけど…正解だった。
「…カリン様が行った行為はとても許せるものではありません。」
カリン様はとうとう泣き崩れてしまったけれど、私は気にせずに続ける。
「処罰は免れられないです、お金の貸し借りは貴女達の問題ですから。」
「ごめんなさい…わかってます、自首します…」
「ですが、指示をしたロザリー様にも、貴女の親にも問題があります。貴女は押し付けられてやってしまったんですよね。」
「はい…」
「…公爵夫人として、罪を償った後の貴女の暮らしを保証します。」
「ううっ…ありがとうございます…!」
カリン様は化粧がぐちゃぐちゃになるくらい泣いて、過呼吸になりかけた。
なので、周りの令嬢達はカリン様が泣き止むように、慰めを止めず励ますことでやっと泣き止んでくれた。
マリーさんが呼んだ近辺にいた衛兵がやってきて、カリン様は連行されていった。
こうして、ちょっと後味が悪いけど、無事お茶会は再開された。
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