第17話 無意味の意味を求めない

「守る呪い?」

「ああ、俺はそうじゃないかと踏んでる」

 空中にあぐらをかいて上半身を曲げて疑問を口にするミャリに答える。

 っていうか、動きが着ぐるみと似てるなミャリ。

 まあ妖精もマスコットキャラみたいなもんか。


 それは置いといて。


「なんか深刻な話するなら席外すよ?」と立ち上がる店主さん。良い人だ。

「いや、僕らがちょっと離れますよ。食べててください」

 俺とミャリが甘すぎてギブアップした食べ物たちだが、店主さんは少量ずつだが全て味を見ている。

 料理の研究に余念が無いなぁ。プロだ。

 それを邪魔するのも悪いので、俺たち3人……人間と妖精と着ぐるみは店の反対側の隅っこの席に場所を移す。

「……思ったんだよ。奴隷なのに触れられないって、凄く価値が下がるだろ?」

「そりゃまあ、そうさ。特に性奴隷としては致命的さ。だから安く買えたんでしょう?」

「だろ?そのうえでこれだ、どう思う?」

 親指で指示したクシナさんは、着ぐるみ姿のまま椅子の上に体育座りをしていて大変可愛い、可愛いが……

「……これも、性奴隷としては、致命的かなぁ」

 そう、生身では痺れて触れられない、この姿も可愛いが性的な要素は一切ないし、肌に直接触れてる感覚もなく、しかも超パワーで容易に相手を吹き飛ばせる。

「これは推測なんだけど……例えば山賊とか盗賊に襲われたとする。クシナさん程の美貌の女性だ、捕まったら奴隷にされてしまう。そう思った誰かが、彼女の身体が汚されない呪いをかけた……としたらどうだ?」

「……なるほど、それはありえるね」

 触れようとしたら電撃、それが効かない相手には着ぐるみ、それでも興奮する性癖には超パワー。

 徹底的に、誰からも肌には触られないようになっていて、かなり厳重に守ろうとしている意思を感じる。

 甘味がトリガーになっているらしいのはイマイチ意図がわからないが……甘いもののレシピだけ覚えているというのも、自分でそのトリガーを引くことが出来るような仕組みの可能性もある。

 もし電気が効かない相手が居た場合、自分でそれを回避出来るように、甘いものを作って食べられる。

 ……いやでも、奴隷が自分で甘味を作って食べるというのはシチュエーションとしてかなり限られてる気もする……これはまた別の意図なのか?

 何か答えを求めたくてクシナさんを見るが、大量に食べた後なので眠くなったのか、大きな頭をぐわんぐわん揺らしてもうほぼ寝ている。

「……まあ、真相がどうだとしても、この線から呪いの正体探れないかな?」

「うーーん、それだけじゃ難しいな。結局呪いのルーツが分からないし、盗賊や山賊に襲われて奴隷になるなんてのはあまりにもありふれた話だからなぁ……」

「そうかぁ……まあそうだね」

 何かしらのヒントにならないかと思ったのだけど、そううまくはいかないか。


 とりあえず当面の目的としてはクシナさんの呪いを解くことなんだけど、さすがに全くヒントの無い状態では動き出すのが難しい。

 適当に旅をして、言った先々で話を聞く……とか、そういうのしかないのなぁ……。


「ぷぴゃるるるる……!ぷぴゃるるるる……!」


 当のクシナさん本人は不思議な寝息を立てながらすっかり眠っている。

 って、鼻提灯がデカイ!!ちょっとした風船を付けてるみたいになってて、椅子に座って上を向いて寝ているので、まるで鼻提灯が風船になってて顔を持ち上げているみたいに見える。

 ……いやこれ、実際に浮力があるんじゃないか?

 ちょっと浮いてる気もするぞ……?

 椅子と座ってる尻の間に隙間があるような……ないような……。

 手を入れてみたい衝動に駆られるけど、浮いてなかったら寝てる間に尻や太ももを触ろうとしたという事実が生まれてしまうのでやめておこう。

 着ぐるみの尻や太ももを触ろうとするのはさすがに変態痴漢のそしりを受けかねない。


 いやまてよ……?

 逆に浮いてたとしたらどうだ?

 浮いてる所に手を入れた瞬間、あの鼻提灯がパンっ!と割れてズシーン!とこの巨体が落ちてきて手が挟まれる……となったら、それは―――――


 面白いな!!

 それはだいぶ面白いぞ……!


 二択、二択だ。

 面白いか、変態痴漢か……なんてリスクが高い二択なんだ……!!

 しかし、これを逃すのは面白い人生として間違っている気もする!

 どちらの結果になったとしても、それはそれで面白い!!!


 となれば……俺はこの隙間に手を入れ――――


「ぺばゃあああああ!!」


 クシナさんが急に声を上げて椅子ごとひっくり返った。

 えっ!?まだ手は動かしてないよ?触っても無いし隙間に手を入れてもないよ!?

 手を入れてないから、どっちの結果も手に入れてないよ!?(上手い事を言った)


「ど、どうしたのクシナさん!?」

 呼びかけると、辺りをキョロキョロと見まわして、俺の顔を見てその動きを止めた。


「……なんか、変な夢見ちゃった♪」


 夢かい。それならまあ仕方ない。

 というか、妙な二択に興じる直前でむしろ助けられたと言えるだろう。

 危なかった。面白い事の追求もほどほどにしなくては。

 もし尻を触るみたいな感じになってそれでクシナさんが嫌な思いをしたら俺だけが面白くても意味が無いもんな。

 うん、肝に銘じよう。

「ってか、派手に転んだけど大丈夫?」

「んー?……うん、なんでもないククー」

 両手で自分の身体のあらゆるところををパンパン叩きながら確認するクシナさん。

 うむ、あの肌のモフモフ具合からすると、やはりだいぶ衝撃を吸収するんだな。


 ……実際に浮いていたのかどうかの謎は解明できなかったが、怪我が無くて良かった。

「ちなみに、どんな夢見てたんです?」


「んーーとねーーー……理論値では可能なのに!!理論値では可能なのに!!って言いながら、ロビー活動をしている貴族を投げ入れて川をせき止めようとしているソイソースマスターが居たクク?」

 まったく意味は分からないけど面白そう!!


 そこからしばらく夢の話を聞いていたが、腋の下から産まれ出たファミリーの涙でパスタを茹でているところにカニシウムという健康に欠かせないカニが大量にやってきて、先に相手の目にレモン汁を入れた方が勝ち、という勝負に興じたところまでしか覚えてないという。


 ……どういうこと????????


 内容は全く意味が分からなかったけど、夢ってまあそういうもんだよね。

 ……いや、夢にしても意味が分からなすぎるけどな?


 実は、この夢には何か意味があるのだろうか、呪いの謎を解くような何かが――――――いや、無いなきっと。


 全てに意味を求めてはいけない。

 意味や答えを求めすぎるのは現代人の悪い癖だ。


 無意味こそが面白いという事も、この世にはあるのです。


 あるのです。


 変な夢はそれはそれで妙に面白かったのでそれで良し!!

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