第11話 ○○インにしてしまった。
「おいおい、もうやめとこうよアスク……さすがに危ないって」
離れて見ていたミャリもさすがに心配になって声をかけてくる。
「まあ落ち着けよミャリ。色々と気づいたことがあるんだ」
「気づいたこと?」
「ああ、実際に食らってみてわかったんだけど、クシナさんに触れた時のあれ……たぶん凄まじく強い電気だと思うんだよな」
「……電気?」
クビどころか腰からかしげるミャリ。
ああそうか、この世界まだ電気の概念無いのか。
そうだよな、明かりも大体火か光魔法だもんな。
「電気つけて」と言ったら通じなかったのはなかなかの異世界ギャップだった。そうだよな、あれは「電気」が「明かり」と繋がっているからこその言葉なんだもんな。
……そういえば電撃魔法も無いな……なんでだろ。
「えーと、簡単に言うと雷だな。雨の日にゴロゴロ言うだろ?アレと同じだよ」
「天の怒りのことか?」
「ああ、この世界ではそう言うんだったな」
うーん、ファンタジー。
「ほら、あの天の怒りも、大きな木に落ちたりすると木が燃えるだろ?そういうことさ」
「……わかるようなわかんないような……だとしても、だからなんなんだ?どうやればそれを防げるんだよ」
「とりあえず試してみたいのは、木だな」
「き?」
「ああ、木」
幸いここは森の中だ、木は山ほどある。
「確か乾燥させた木材は電気を余り通さないはずだ」
「……たった今、木が燃えるって話したよな……?」
「まあそれはそうなんだけど……ちょっと試してみようか。ごめんなー」
なんとなく木に謝りつつ、素早く二回斬り、そして斬った間の場所を強く蹴飛ばすと、だるま落としみたいに良い感じにタイヤくらいの大きさの木が手に入った。
抜けた部分の上の方がそのままストンとしたの落ちたので、支えてなるべく真っすぐにしつつ、回復魔法をかける。……繋がったかな?繋がった気がする。まあもし繋がって無くても許してくれ。
「で、この木を……こう!」
さらに剣で斬って、厚めの雑誌くらいの四角い板にする。
そのままだと木の中の水分が電気を通してしまうので、確か干して中の水分を飛ばすとかそういう作業が必要だった気がする。
炎魔法と風魔法を組み合わせて良い感じに炙ってみよう。
結構な勢いでやったから外側が焦げたけど、水分が飛んでその分軽くなった気がするから行けるかな?
とりあえず焦げたところは削ろう。
「よし、こんなもんでどうかな。ちょっと来てクシナさん」
嫌そうな顔で渋々近寄ってきてくれたクシナさんに、出来上がった木の板を軽く当てて、その上から触ってみる。
「……おおっ?まだ電気来てる……けど、さっきより耐えられる気がするな?」
正直これが木が電気を通さないおかげなのか、単純に一枚挟んで直接触っていないからなのかわからないが、行けそうな気がする。
しかし、時間がたつとかなり熱くなってきたので一旦離す。……たぶんこのままだと燃えるな木が。
「……そうだ、この木と、俺と、両方に防御魔法とかかけられる?」
「……諦めろってマジで……諦めが悪いのが美徳だとでも思ってんのか?」
「別に思ってないよ。ただ、諦めるのはやれることやってからでも遅くないと思ってるだけさ。頑張ればできるかもしれない事を諦めたら損するだろ?」
その言葉に驚いたような顔を見せるクシナさん。
……なんか変なこと言ったかな……?
「ちっ、しゃーねぇな……来来来世まで感謝しろよ」
前前前世みたいに言った。元ネタ知らないはずなのにな?
クシナさんが小声で何か呪文を唱えると、不意に自分の体の周囲が何かに包まれたような感覚。
木の板もなんか暖かくなった気がする。
先ほどと同じように木の板越しに触れてみると、刺激はかなりあるが耐えられないほどじゃない。なんていうか……あの、テレビの罰ゲームとかで使われてる肌に貼るタイプの電気マッサージ器の最大出力みたいな感じだ。
痛いのは痛いけど、痛いだけだ。
「よし、これならいけるぞ!!」
と思ったのもつかの間、おんぶをするとなると一番呪いの強い股間部分が腰のあたりに触れるので腰が燃える。さすがにそこは突破できないようだ。
しかし可能性は感じたので色々と試した結果――――ひとつの形に落ち着いた。
「これだ!!今度こそ行けるぞ!!」
そう声をあげた俺の腕には、木で作ったツタンカーメンの棺ような形のものがあり、その中にクシナさんが入っていた。
木をアイテム創造でこの形にして、さっきと同じように乾燥させた自信作だ。
「わしゃ死体か!!!!」
なんてド直球なツッコミなんですかクシナさん。
というか、こっちの世界でもこの形って棺なんですね。
「いやでも、おんぶが出来ないならお姫様抱っこなら股間部分には触れずに済む、けど木の板を挟むのが難しい、いっそ四角い棺桶みたいな箱に入れてそれを持ち上げたら良い、いや四角いと持ち上げづらい、丸みを持たせようとしたらこの形になった……という流れなので、これが最適解かと……」
「そこまでしてアタシを持ち運びたい理由がわからんのだが?……ってなにしてんだ」
「ああ、今ちょうど、クシナさんと棺とひもでぐるぐる巻きにしているところだよ」
縛っておかないと走ってる途中で飛び出るかもしれないからね。
「ちょうど、の意味が分かんねぇよ。何のタイミングとぴったし合ったんだよ」
「よし、じゃあいきまーーす」
「は?いやいや、偽勇者こら。お前マジで頭んなか腐ってぇぇぇぇええぇぇぇぇ!?!?!?」
しゃべってたけど、もう準備は終わったから走り始めた。
勇者の肉体は伊達ではなく、身体能力が凄まじく高いので、全力で走ればそこらの馬にも負けないくらい速く走れる。
……あ、そうか。町に付いたら馬車買おう。そんで馬の代わりに俺が引っ張れば良いんだ!その方が棺より安全だもんな!よし、馬車買うぞー!
そんなことを考えつつ、きっかり15分で町の前までたどり着いた。
棺は何とか燃えるまでは行かなかったが熱と痛みはかなり貫通してきて、ラスト5分は落とさないようにするので大変だった。
ゆっくりと棺を地面に卸すと、抱えていた両腕が焼け焦げたようになっていてかなりの痛みを伴う。
回復魔法で何とか元に戻せるだろうけど……15分で限界だなこれは…あと5分続けていたら、棺も腕も焼け落ちていただろう。
自分に回復魔法をかけながら視線を前に向けると、目の前には水の溜まった深い堀と高い壁に囲まれたこの国最大の都市・王都がそびえたつ。
中に入れる場所は基本的に正面の跳ね橋だけで、それ以外の三方は深く幅もある堀を飛び越えることは不可能で、王都の守りはかなり硬い。
この世界のモンスターは基本的に魔王の意思の元、世界を征服するために動いているので、人の少ない山の中とかにはあまり居ない。
モンスターとは言いつつも、統率の取れた軍隊が侵略してくるようなもので、実に厄介なのだ。
たまにそこから外れたはぐれモンスターが出たりもするが、それほど大きな脅威になることはあまりない。
だからこそ、王都の守りはとにかく固くしておく必要があるのだ。
今日も見張りの兵士が壁の上から四方八方に目を光らせている。ごくろうさまです。
王都の防衛に参加したこともあったけど、大変だったなぁあれは……まあどちらにしても、その辺はもう新勇者くんに任せられるから気楽なもんです。
「おい……紐……紐、外せ……外せ……」
だいぶ弱々しい声が地面に置いた棺から聞こえてくる。
「え、ああごめん。はい」
剣で紐を斬ってクシナさんを解放すると、ふらふらした足取りで、しかし慌てて堀の近くへと歩いていく。
「あ、ちょっと……危ないよ」
堀は5メートル近い深さがあるので、落ちたら大変だ……と思った瞬間、耳に届いたのは、「おえええええ」という完全に口から何かを吐き出す声と音だった。
……ああ酔ったんだね……そりゃそうか……ごめんよ……。
奴隷を買ってすぐにゲロインにしてしまった……申し訳ない。やはり馬車だ、馬車が必要だな。
あと、堀に吐いちゃってごめんね王女様。まあ、俺のこの国に対する貢献度からしたらこのくらいは許されても良いだろう。
クシナさんがだいぶつらそうなので様子を見に行きたい気持ちはあるが、さすがに吐いてる所を見られるのは抵抗があるだろう。奴隷とは言え配慮は必要だ。
……必要だよな?
なんか奴隷の定義が良くわからんけど、せっかく女の子がパーティに入ったのに奴隷だからと雑に扱うのも抵抗がある。
……童貞だからか……?
いや、仮に俺がヤリチンだったとしても、だからって女の子を雑に扱っても良いという理由にはならんはずだ。うん、きっとそうだ。
とか考えてたら、ふらふらしながらクシナさんが戻ってきた。
「大丈夫?はい、これ水。まだ口付けてないやつだから安心して」
と言っても、ファンタジー御用達の革袋みたいなやつの中に水を入れているので衛生的にどうなのかはわからんけど。一応俺は、ペットボトルにも口を付けないで飲むタイプだったので、こっちの世界でもそうしている。
ちなみに自分用には飲みやすい竹筒みたいな水筒もあるけど、口を付けてないとはいえ飲みかけは嫌かな、と思って予備に買っておいた革袋の方を渡した。紳士的なふるまいだ。たぶん。
奪うように受け取ると、思い切り口を付けて飲み始めた。
あらワイルド。ワイルドだろぉ?Get wild。何言ってんだ。
それはともかく、この世界で衛生面を気にして口を付けずに飲むという風習は無いらしく、見たことが無い。
まあ元の世界でも日本以外ではあまりやらないらしいしそういうものか。
コロナ渦で飛沫がどうとか、そういうのも経験してないだろうしなこっちの世界は。
軽く口をゆすいだ後に水を半分ぐらいがぶ飲みしたクシナさんは、涙の溜まった瞳を向けながら、言葉だけで俺が殺せそうなくらいの殺意を感じさせる口調で言葉を吐き出した。
「……この移動方法、二度とやるな……!次やろうとしたら舌を噛んで死ぬ……!」
「絶対やりません」
殺すではなく 死ぬ な辺りにガチで嫌だったんだなと感じて大反省するのでした。
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