第9話 すべてに優先される事。

「面白そうだから、とか言ったらぶっ飛ばすぞ」


「面白そうだから!」


「どうりゃ!!」


 宣言通りミャリにぶっ飛ばされました。たいして痛くはないけど。

「キミってやつは!!キミってやつは本当に!!どうりゃ!」

「ごめんて。二発目はやめてよ」

 まあ、面白そうだから、という理由で半年は遊んで暮らせる金を払うのもどうかしているとは思う、思うが――――もうちょっと話を聞いて欲しい。

「まあ落ち着けよミャリ。この面白そうにはいろんな意味があるんだって」

「……いろんな意味?」

 三発目のどうりゃスタンバイに入っているミャリをなんとか制止する。

「まず一つ目は、話してて面白そう」

「……罵倒されるのが?」

「うん、めっちゃ面白そう」

「ドMか……?」

「いやいや、だってさ、俺だけじゃなくて出会った町の人とか、お偉いさんとか、途中で盗賊とかに襲われても罵倒するんだぜ。絶対面白いじゃん」

「……その面白さには後処理の大変さが付いて回りそうだぞ?」

「それも踏まえて面白いじゃん」

 ミャリは何か言いたそうに口をパクパクさせたのち、諦めたのか何も言わずに頭を抱えた。

 苦労を掛けるね。

「それに、もう一つ特大の面白そうがある」

「……なんだよ」


「旅に目的が出来る」


「目的……あ、呪いを解く事か?」

「そう、これから自由になるとはいってもさ、ただ何の目的もなく旅をするよりは目的があった方が良いだろ? しかもこれは、期限の決まってない目的だから旅をしながらのんびり探していけばいいし、それでいて達成したらこの超美人とエロい事が出来る!!そう考えたら、この子は俺のこれからの人生に必要だな、と思ったんだよ」

「ア、アタシはてめぇみたいなクソキモ童貞必要としてねぇぞぅ~……!」

「あははは、いいね。面白い。どんどん面白くなってきてる。というわけで買います」

「……あ、ありがとうございます? ……良いのかな?助かるけど」

 ザキさんがだいぶ戸惑っている。

 正直自分でもどういう感情の流れでこうなっているのかイマイチ分からない部分はあるのだけど、まあ面白いからいいか、となっている。

 わからない事もまた面白い。

 面白さに生きる俺の新たな人生にとって、相応しい第一歩じゃないか。


 こうして俺は、人生で初めての奴隷を手に入れたのだ!!



 支払いを済ませて、おそらく人生で一番大きな買い物をした高揚感に包まれている俺にザキさんの説明が入る。

「えーと、では簡単な説明なのですが、普段は奴隷を購入されると、奴隷契約という呪術的な縛りが施されます」

「ほうほう」

「これは、主人に対する絶対服従などを命じる契約なのですが……なにせすでに呪われているので、そこにさらに奴隷契約が上書きできない状態です」

「………それ後出しで言うのズルくないですか?」

「いや、それはよくあることというか、様々な条件で奴隷契約が出来ないというのはままある話なのです。呪いに強い種族などもおりますので。そんな時には、こちらの首輪を装着します」

 取り出したのは、太い首輪にトゲトゲが付いている、いかにも奴隷用といった首輪だ。

「これは首輪自体に術がかけてありいつでも奴隷の位置を把握できますし、逆らうようなら全身に電撃が走って痛みを与えますので、言う事を聞かせることが可能です」

「……えー、やだそれー。暴力で支配するみたいなのやだー。あと可愛くない。そんな可愛くないの俺の奴隷につけさせたくない」

 俺には人を痛めつけて喜ぶ性癖はないのだ。

「え、あ……そ、そうですか?」

「もっとかわいいやつないんですか?」

「ではその……こちらのチョーカータイプではいかがでしょうか?」

 出してきたのは、シンプルな黒いチョーカー。

 ……悪くはないけど……まあいいか。あとで街に寄って、チョーカーにつけられるアクセサリーとか付ければいい感じになるだろう。

 せっかく可愛い奴隷を買ったのに可愛くない格好なんてさせたくないもんな。

「じゃあそれで」

「しかしその、こちらのチョーカーは居場所を知ることは出来ますが、罰を与えることが出来ませんが、それでよろしいので?」

「いいですよそれで。別に罰与える予定もないですし」

 もし本当に何かしでかしたら、なんかハリセンみたいなのでスパーンと叩くくらいで良いだろう。…ハリセン……この世界にもあるかな?あれは良い紙じゃないと難しいからな……何か代わりになる素材があると良いけど。

 素材さえあればアイテム創造で作れるしな。

「では最後にサービスとして、主人の呼び方を強制することが出来ます。こちらは奴隷契約とは違って本当に簡単な術式なので、呪いの影響を受けずに可能です」

 ……呼び方……呼び方ねぇ……ご主人様、とかいうやつか?

 悩みつつクシナさんを見ると、

「あぁ?ドブみてぇな濁った眼でこっち見るなよぅ、このクソキモ童貞が」

 と相変わらず泣きそうな声で言ってくる。面白い。

 けど、さすがにずっとクソキモ童貞って呼ばれ続けるのはちょっとやだな。

 長いし、周りの人に童貞だって思われるし。事実だけども。

 ここだけ何か考えよう。

「うーーーん」

「定番のものですと、ご主人様や旦那様、名前に様付け……変わり種だと、神様と呼ばせたりする方もおられますが……」

「いやぁそれはつまんないですねぇ……もっとなんか無いですかねぇ……」

 せっかく面白い事になりそうなのに、そこだけ普通では面白くない。

 もっと面白く……状況が面白くなりそうな呼び方―――――あっ!!

「決まりました!」

「そうですか、では何と呼ばせましょうか?やはりご主人様などが――――」


「偽勇者!」


「……はい?」

「偽勇者って呼ばせよう!!」

 これは面白そうだぞ!!行く先々で、偽勇者!って呼ばれてるのが元勇者だって言う状況、絶対みんな困惑するじゃん!!

「お前、正気か?」

 ミャリも耳元で正気を疑ってくるが、完全に正気です。

「言ったろ、俺はもう面白さだけを追い求めて人生を生きていくんだ。面白ければそれでいい!なので、偽勇者です!」

 堂々と言い放つ俺に対して、改めて確認するザキさん。

「……本当に、それでよろしいのですか?最初はサービスでやらせていただきますが、変更の場合は別途料金がかかりますが……」

「良いです!やってください!」

「じゃあ……そうしますね……」

「狂ってるぅ~~!!こいつマジ狂ってるぅ~~!!こんな狂人に買われるアタシの人生もう終わりしかねぇよ~~」

 しくしく泣きながら嘆くクシナさん。

 この場にいる俺以外の全員が困惑しているが、俺はだいぶワクワクしている。


 これからの旅、楽しくなりそうだな!!



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