第16話 早春の町田、桜スープ通り
春の風がまだ冷たさを残して吹く頃、町田の街にようやく桜のつぼみがふくらみはじめた。忠生から町田駅へ続く通り沿いも、街路樹の枝先がうっすらピンクに染まり、冬の名残と春の匂いが混ざっている。
猫屋の店先では、ベスが「もうすぐ桜咲くねぇ〜」と伸びをしていた。
猫さんは黙って鍋をかき混ぜ、淡い桜色のスープを仕込んでいる。
「……春は、色で味を決める季節だ」
「え、色で味? そんなの聞いたことないよ」
「見た目で心が温かくなれば、それも味のうちだろう」
ベスは首をかしげつつも、猫さんの言葉に少し頬を緩めた。
その日の午後、町田シバヒロでは早春フェアが開かれていた。
マナちゃんやミオちゃん、ショウさんも集合し、リス園チームは出張ミニふれあいスペースを展開。コータローは交通整理をしながら、「花見の場所取りはほどほどに!」と真面目に声を張っている。
ベスは猫屋の屋台で「桜スープ弁当」を配りながら、笑顔で客を迎えた。
スープは、玉ねぎと豆乳で作ったまろやかな白に、桜の塩漬けをひとひら浮かべたもの。ほんのり塩味が香るたびに、春が喉を通るような優しい味わいだ。
「映えるぅ〜!」とミオちゃんが歓声を上げてスマホを構える。
「#桜スープ通り #町田グルメ」で即投稿。
サブちゃんは隙を狙ってスープをついばもうとするが、ショウさんが低い声で「どうぞどうぞ」と立ちはだかり、静止。
笑いと春の風が交差する中、ベスはふと空を見上げた。
まだ満開には遠い桜の枝先に、ひとひらの花びら。
その淡い色を見て、彼女は思わずつぶやいた。
「……猫さん、色の味、ちょっとわかったかも」
猫さんは小さく微笑み、「……それは春の味だ」と答えた。
◎本日のメニュー◎
桜スープ弁当
・豆乳と玉ねぎのやさしいスープに、桜の塩漬けを一枚浮かべ
・菜の花ごはん、春色卵焼き、ほんのり桜餅風デザートつき
「町田の街が春に染まりゆくころ、
猫屋の桜スープは、花よりも早く、
人々の心に春を咲かせていた。」
つづく
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