ワガママ王女様は私と結婚したいらしい〜王女様はあの手この手で私を籠絡しようとしてくる〜

皇冃皐月

第1話 ワガママ王女様のワガママ

 「──お父様、わたくしは男性と結婚するつもりはございませんわ!」


 豪奢なシャンデリアが揺れる王宮の謁見の間で、一際高らかな声が響いた。


 グランフェルド王国の第一王女、アメリア・フォン・グランフェルド。

 政略結婚を断り続けてはや七年。今日もまた、王女様のわがままに、貴族たちはため息を吐く。


 「アメリア……おまえなぁ……今度の相手は北の帝国の皇太子だぞ!? 断るにも限度が……!」

 「ええ、わかってますわ。ですから丁重に、盛大に、容赦なくお断りしました!」

 「それで前回の……南の帝国とは、戦争にまで発展したのを忘れているのか!?」

 「そんなのわたくしの知ったことじゃありませんわ。あっちが勝手に癇癪起こしただけに過ぎませんもの。わたくしには関係ありませんわ」


 アメリアは凛とした表情のまま、ティーカップを持ち上げる。

 なにか文句でもあるのか、と言いたげな様子で、周りにいる貴族を、そして父親である国王を睨みつける。


 「いいですか? 何度も申し上げていますが、わたくしは愛のない結婚などまっぴらごめんですの。好きでもない男性の手など、どうして取る必要があるのです?」


 国王はこめかみに手を当てた。

 何度目だこのやりとりは……と思った。


 そして、毎回その後にこう続く。


 「――では、おまえの望む理想の相手とは、いったいどんな者なのだ?」


 アメリアはにっこりと微笑んだ。


 「可愛くて、気品があって、知的で、でもちょっと抜けてて……なにより、可愛らしさのある方ですわ!」

 「あのな、アメリア。お前はもう二十歳だ。わかるか? 生き遅れてるんだ。一つの取り柄であった若さが刻一刻と失われている。それなのにどうしてそこまで要求高く、理想も高くいられるのだ。そろそろ現実を見てくれ」

 「現実を見ているからお断りしています。結婚など、わたくしからしてみればしなくても一向に構いませんわ」

 「ア、アメリアァァァァァァァァッ! もうお前にそんな相手は現れないッ!」


 国王の叫びが王都にまで響いたとか響かなかったとか。


◆◇◆◇◆◇


 「……これはもう、異世界召喚しかないな」


 十日後、王宮の地下祭壇で、異世界との契約儀式が行われた。

 古の伝承に曰く――『最もふさわしい伴侶は、扉の向こうの世界から来る』。

 その伝承に則った形だ。

 国王しかり、有力貴族しかり、王女アメリアの体裁を保つにはこれに賭ける他なかった。このままだとアメリアは結婚することが出来なくなる。そうなれば、グランフェルド王国の王女は婚期を逃した独身であると、他国へ恥を晒すことになる。それはなんとしても避けたい。みなの願いであった。


 「お願い、理想の相手を……素敵な可愛い子を連れてきて!」


 その皆の思いなど知らぬアメリアは魔法陣の前で祈り、魔方陣が光る。

 その瞬間、時空がゆがみ、光が炸裂した。


 そして──


 「……え? えっ、ここどこ!?  なんで床が石!?  私、学校行ってたよね!?」


 現れたのは、制服姿の日本の女子高生・篠原しのはらこはる。


 「嘘……」


 アメリアは両手で口を覆いながら、召喚された篠原こはるを見つめる。


 「……うっ、可愛い」


 アメリアはにやけた。


 「──あなた、お名前は?」

 「し、篠原こはるですけど……って、えっ? なんかめっちゃ見られてる!? えっ、だれこの美人!? てか服どうなってるの? めっちゃお姫様じゃん。なにこれドラマの撮影? ドッキリ? 一般人にドッキリ?」

 「こはる。ふふ、わたくしの運命の人ですわね。まずは召喚されてくれて感謝しますわ」


 す、とアメリアが手を差し出す。


 「私はアメリア。……あなたを召喚したのは、私の花嫁にするためですわ♡」

 「は????」

 「わたくしと結婚してくださいな」


 世界が静止した。この時動いていたのはアメリア、ただ一人であった。


 「なっ、婿は? 婿はどうした!?」


 遅れて国王が喚き、貴族にも動揺が走った。


 「お父様。なにを錯乱なさっているのですか? 今、わたくしの目の前にいますわよ?」

 「仮に結婚したとて、それは婿じゃない! 嫁じゃ、娘じゃ!!!」


◆◇◆◇◆◇


 異世界に召喚されて一秒でプロポーズされたんですけど。いや、待って。無理。無理無理。結婚とか無理だから!

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る