第3話ー待ちぼうけの誕生日パーティー



ジュナは晴れて15歳になった。



しがない伯爵邸ではあるが、盛大に誕生パーティを開いてくれた。

昔馴染の友人たち、父の知り合いの貴族たち。


ジュナの父、ジョナサン・クライス。サバサバとした貴族らしからぬ性分の父は、身分に関わらず知り合いが多かった。




プレゼントも沢山貰った。ビジューの着いた綺麗な靴。ツバの広い帽子。自分より大きなクマのぬいぐるみ。

どれもジュナが喜ぶように用意されているものだった。


しかしジュナの気分は晴れなかった。笑顔でい続けたものの、ジュナが1番来てほしい人は、現れなかったからだ。




「お忙しいのよ。夏の長期休暇も領地にお戻りにならなかったみたいだし、きっと仕事が山のように積んであったのだわ。ーそれでも来なければいけなかったけれど」


ルナマリア・ローウェン侯爵令嬢は、ワイングラスに注がれた炭酸ジュースを差し出しながら言った。


「ルナ」

彼女の名を呼び、差し出されたグラスを受け取る。


四大侯爵家の1つ、ローウェン侯爵家の令嬢をファーストネームどころか、愛称で呼ぶ事を許されているのはジュナくらいだろう。


彼女もまた、ジュナの父であるクライス伯爵のツテで知り合えた良縁だ。



ため息を付きながらルナマリアが続けた。


「お父様に確認しても、エリアル様の行方は教えてくださらなかったわ。どこで何をしてらっしゃるのかしら」


「ありがとうルナ。ローウェン侯爵様にもご迷惑をかけたわね。いいのよ。エリアルにとって、私はその程度の存在だったのよ」


自分で言っておいて、グサリと響く。




だってそうなのだ。彼は、エリアルは、あれ以来ジュナを訪ねて来ていない。




昨年、「再来週は来れる」と言っていたくせに、謝罪の手紙だけ届き、それ以来パタリと便りすら届かなかった。



(こんなにあっさりと、いきなり、見限られるとは)




最初の数ヶ月は泣き、思い出してはまた泣いた。 


しかし、時間が経つと腹が立ってきたのだ。




しがない伯爵令嬢が、侯爵家嫡男に腹を立てるなどおこがましいが、あそこまで期待をさせておいて、いきなり縁をブチッと切るなど!



ルナマリアは、ジュナの顔を寄せ、自分の側頭部にコツンとあてた。


「いいじゃない。魔術学園で会ったら、沢山文句を言ってやりなさい。わたくしがいるから大丈夫よ」


「そして、一緒に他にいい男性を見つけましょう」


女神のように微笑んで、とんでもないことを言うルナマリアに、ジュナは慌てた。


「ちょっとちょっと!ルナには王太子殿下がいらっしゃるのになんてこと!」


「フフフ。冗談よ。周りは誰もいないし」


周りを確認しての発言ならば、なおさらヒヤヒヤする。


コロコロ笑うルナマリアに、笑顔を返す。


「魔術学園、楽しみだね」



未来の王太子妃であるルナマリアも、魔術学園卒業後は王宮へ入る。なので、ジュナと遊べるのもそれまでだ。


一旦王宮へ行ってしまうと、ジュナには手の届かない存在になってしまう。




頭をふり、不安を消し、ルナマリアと腕を組んでケーキを物色しに向かった。
















ーーーーーーー

夕刻、ルナマリアと別れの挨拶をかわし、ジュナは庭を散歩した。





待ち人は、ついに現れなかった。


(エリアルが来なくたって、パーティは楽しかったわ)


そう思おうとしたのに、眼から大粒の涙が溢れはじめた。


「うっうう」


たまらず、その場にうずくまった。




後ろから、かけ足で近付いてきたのはルナマリアだ。


馬車に乗ったものの、やはり心配で追いかけてきてくれたのだ。


ルナマリアは覆いかぶさるようにジュナを抱きしめた。




「本当にエリアル様は悪い人ね」


怒りを込めて呟いてくれた。




「だって、、、私っ、招待状も出したのに、、、」


震える声で訴える。




学園が始まれば、会えないのは分かっていた。


1年近く便りがなく不安で仕方なかったが、1年が終わり、長期休暇に入った今、ジュナの誕生日パーティに来れない理由は?


ジュナは、今日エリアルに会ったら言うセリフを決めていた。


まず、連絡をくれなかったことを怒って、でもケンカするのは時間がもったいないからすぐ仲直りして、魔術学園の色々を聞いてー···まさか来てくれないなんて。


(ばかだな、私。)



「でも、うらやましいわ」


びっくりしてルナマリアを見た。涙も引っ込んだ。


ポカンと見ているジュナの視線に気付き、ルナマリアは申し訳無さそうに言った。



「ごめんなさい。不謹慎だったわね。でも、本当にそうなのよ。」


「?」


何がそうなのかさっぱり分からない。



「わたくしは、いずれ王太子殿下と結婚するけれど、ジュナの様な感情はないもの。尊敬はしているけれど、やはり違うわ」


「その感情を知らない方が良いのかもしれないけれど、、、」


ルナマリアは寂しそうに笑う。



「元気をだしてジュナ。わたくしがいるじゃない」


頭を撫でたり、肩をなでたり、なんとか慰めようとしてくれるのが伝わってきて、ジュナは微笑んだ。



「ありがとうルナ」


ルナマリアの伴侶になる王太子殿下が、良い人だといい。自分の感じているこの感情を、ルナマリアと王太子殿下は二人で育めると良い。




ジュナは心からそう思った。






とにもかくにも、入学はひと月後。


(エリアルには、会いたくないな)


会ってしまった時に、自分がどう対応するか分からない。


もはや文句を言うのも、泣くことも、平静を装うことも、どの自分も嫌だった。



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