第7話
放課後の教室。
クラスメイトたちが帰り支度をするなか、
俺は朝倉真央に呼ばれ、黙ってその後をついて行った。
階段を降り、渡り廊下を抜け、辿り着いたのは――
人気のない、中庭のベンチだった。
「……ここなら、人目ないでしょ」
真央はそう言って、ベンチに腰を下ろす。
俺も、少し距離を取って隣に座った。
沈黙。
セミの鳴き声が、やけに耳にうるさく感じる。
「……で、なに話したかったの?」
そう聞いた俺に、真央はゆっくりと、少しだけ俯きながら口を開いた。
「……あんたさ、最近変わったよね」
「え?」
「前までさ、クラスでもほぼ喋らなかったのに。
姫坂さんとか、保健委員の千景先輩とか、星野さんとか……なんでみんな、あんたに近づいてくんの」
「そ、それは……俺も、よくわかんなくて……」
「わかんないの?」
「……わかんないけど、たぶん“偶然”だよ。俺が意識して近づいたわけじゃ――」
「でも、嬉しいんでしょ?」
その言葉は、やけに鋭かった。
「……嬉しくないわけ、ないけどさ」
「そっか……」
真央の声が、かすかに震えた。
「でもね、私……ずっと見てたんだよ」
「え?」
「誰よりも、あんたのこと。
一緒に育ってきて、いっつも隣にいて、バカな話して、くだらないゲームして。
……あんたのこと、ずっと知ってると思ってたのに」
目元を隠すように、真央は手で前髪を抑える。
「最近のあんた、私が知らない顔ばっかり見せるんだもん。
姫坂さんに笑いかけられて、千景先輩に膝枕されて、星野さんと仲良くなって……
そのたびに、胸がギュッて、苦しくなるの。……なんでかな」
(……それは)
「私、あんたが他の誰かに“取られる”のが――怖いんだよ」
決壊するように、真央が言葉を吐き出す。
「わかってる。あんたがモテてるなんて、変な話だって。
でも、それでも……っ、あたし……!」
真央は顔を伏せ、声を震わせながら、それでも絞り出すように言った。
「……私、あんたのことが、好きなんだよ……」
その告白は、たしかに俺の胸に届いた。
誰よりも近くにいた幼なじみ。
誰よりも遠慮がちな優しさで、ずっと見守ってくれていた少女の、本当の気持ち。
「……真央ちゃん」
俺は何も言えなかった。
返す言葉が見つからなかった。
嬉しいのか、戸惑っているのか、それすら自分でわからなかった。
だけど――
その背後に、もう一人の影が現れたことに、俺は気づいていなかった。
「……そっか、そういうことだったんだ」
夕焼けの中庭に、静かに響く声。
振り返ると、そこには――姫坂ほのかが立っていた。
感情の読めない瞳で、俺たちを見つめていた。
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