爆裂魔法拳で、守れなかった世界を殴り変える

ちゃま

第1話守れなかったから、ここまで来た

焼け焦げた魔物の肉片が、熱を帯びて地に転がる。

血に濡れた拳をゆっくり下ろし、カイは荒い息を吐いた。


 


──ここは、ダンジョン深層。

最悪の地。S級、いやそれ以上と呼ばれる災厄級領域。

一歩踏み出すだけで死が待つ世界を、彼はたった一人で踏破してきた。


 


「……終わった、か……」


 


握った拳から、血が滴る。

だが、その痛みすらもう感覚がない。

武術。それだけを極めてきた。

──失ってから。


 


結月を守れなかった、学園の日。

母を救えなかった、都市崩壊の日。

何もできなかった自分を殺すように、

カイは拳を、体を、命を鍛え続けた。


 


だが、気づけば世界は変わっていた。

今は魔法の時代。

火力、支援、殲滅、探索――あらゆる局面で魔法が上を行く。

“拳で殴る”という戦い方は、もう過去の遺物だった。


 


「それでも……ここまで来れたのは、あの二人がいたからだ」


 


バキ、と何かが崩れる音。

魔物の死骸の奥から、異様な光を放つ“何か”が姿を現した。


──異物。

それは、ダンジョンでごく稀に発見される“時空に干渉する魔素結晶”。

噂では、時間や記憶に作用すると言われているが、誰も真偽を知らない。

だが今、確かにカイは“何か”を感じた。


 


【やり直すか?】


 


声が、脳に直接響く。

それが誰のものかも、どうでもいい。

一度はすべてを失い、それでも歩き続けた彼には、選択肢はただ一つしかなかった。


 


「……ああ。今度こそ守る。何もかもだ」


 


血塗れの手が異物に触れた瞬間、

世界が、反転する。

深層ダンジョンの闇が、光に飲み込まれていく――


 


 


目を覚ましたとき、窓の外には春の陽射しが差していた。

母の声が、遠くから聞こえる。

そして隣には──ずっと忘れたくなかった、結月の姿。


 


「……夢、じゃない。これは……回帰だ」


 


この手にはもう、かつての“強さ”がある。

武術の記憶も、経験も、そのままに。


 


「なら、今度は魔法を選ぶ。魔法と拳、両方で……すべてを守る」


 


──この物語は、すべてを失いながらも生き抜いた少年が、

  “今度こそ守るために”、拳と魔法で世界を変えていく物語である。

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