転校初日で「彼女バレ」した俺、実は全員に好かれていた件

赤いシャボン玉

第1話

 教室に入った瞬間、ざわつきが止まった。


「……え、誰? モデル?」


「転校生じゃない? 朝比奈あさひなって……」


 静まり返った教室で、俺はちょっとだけ苦笑いを浮かべた。注目を浴びるのは慣れてる。むしろ、それが嫌で転校したくらいだ。


「えっと、今日からこのクラスに入る朝比奈陽真あさひなはるまだ。よろしく」


 当たり障りなく自己紹介をして、空いていた一番後ろの席に促されて座る。窓側で、日差しが心地いい。ここの学校は都会の喧騒から離れていて、空気も人間関係も、きっとゆるいと思っていた。


「お隣、よろしくねっ!」


 そう言って笑いかけてきたのは、隣の席の女子だった。ぱっちりした目に、茶髪のショート。明るくて、ちょっとお節介そうな雰囲気。


水沢みずさわひなた。うちのクラス、けっこう変なやつ多いから気をつけてね!」


「いきなりだな。よろしく、水沢さん」


「敬語いらないよ、同い年なんだからさ!」


 こうして、俺の転校初日は、まあまあ順調に始まった。


 ――昼休みまでは、ね。



 弁当を開けて、ようやく一息。自分で作ってきた適当なサンドイッチを食べていると、スマホが震えた。


【はるくんへ♥ お昼ちゃんと食べてる? 愛してるよー!】


 メッセージの内容は、明らかにラブラブカップルのそれだった。だけど、これはただの妹――陽葵(ひなた)。兄妹仲が良すぎるだけの話。


 ……の、はずだった。


「えっっ!? 今の通知、“愛してる”って書いてなかった!? ちょ、彼女!? 転校初日で彼女バレ!?」


 隣の水沢が覗き込んで、全力で叫んだ。


 一瞬で、教室中が騒然となった。


「え、マジ!?」「誰!? どこ住み!?」「え、早く見せて!」


 わーっと女子数人が集まってくる。俺は慌ててスマホを伏せた。


「違う! これは、妹からで――」


「妹が“愛してる”って送る!? どんな家庭!?」


 ごもっともである。でも、事実なのだ。陽葵は重度のブラコンで、俺が家を出てからというもの、LINEの通知が毎日うるさい。


「つーか陽真くん、イケメンすぎるし、彼女いても全然不思議じゃないよねー」


「わかるー。あ、でも彼女いるって分かったらちょっとショックかも……」


 ……なぜか好感度が下がるどころか上がってる気がする。なんだ、このクラス。



 放課後、騒ぎは一応落ち着いていた。


 水沢が申し訳なさそうに声をかけてきた。


「ご、ごめん! なんか私のせいで、変な誤解させちゃって」


「気にするな。別に悪いことしてないし」


「でも、妹からのLINEだって分かってたら、あんなに騒がなかったのに……私、すぐテンパっちゃうタイプでさ……」


 肩を落とす彼女に、俺は少しだけ笑って答えた。


「ほんとに、気にしてないって。むしろ、助かったかも。最初の印象が“無愛想な転校生”だったら、クラスとなじめてなかった気がするし」


「……そっか。なら、よかった!」


 彼女の笑顔は、まぶしかった。


 ――このとき、俺は知らなかった。この“誤解”をきっかけに、俺がいろんな人にモテ始めるとは。


 そして、このクラスには、まだまだヤバい奴らが潜んでいるということも――。


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