第11話 決意

「キーンコーンカーンコーン」


ライムにとっては懐かしい響きのチャイムがなるのと同時に、担任のアークは教室へと入ってきた。


「さっきも言ったが、先ずは各々自己紹介をしてもらうぞ。じゃあ、お前から順にな」


と言い、教室の左端に座っていたライムを指した。


「どうも、ライム=レポンです。1年間よろしくお願いします」


「おい、あれって首席の子じゃ?」


「まじかよ、このクラスも安泰だな」


「ライムくんって思ったよりイケメンなのね、いいわぁ〜」


などと様々な声が教室に飛び交った。


「いちいち騒ぐな。ほら次」


とアークがクラスを牽制した。


「ラッカル=ネビンです。ライム様の弟子やってます。学年トップ2になれるように頑張ります」


ライムは、ラッカルがちゃんと「弟子」だと名乗ったことに安堵した。寮の新入生歓迎会の時のように、変に自己紹介されたらどうしようと思っていたがそれも杞憂に終わった。


「トップ2?何故トップではない?」


アークが不満そうに言った。


「なぜって、トップにはライム様がいらっしゃるからに決まってるからじゃないですか」


「その師匠様を超えてこそじゃないのか?」


アークにそう言われた瞬間、ラッカルの雰囲気が一変した。


「…ライム様がどれだけすごいか分かってます?」


「…は?」


「ライム様は!史上初の!満点合格!なんですよ!今までこんなことなかったんですよね!?そんなお方に、一朝一夕で敵うとでも!?」


「あ、あぁ…。ま、まぁ、自分のできる範囲で頑張れば良い、じゃ、つ、次!」


あまりのラッカルの剣幕に押されたのだろう、次へと流してしまった。


「俺様はヒュール=ウルヒだ。よく覚えておけ!」


数人の自己紹介ののち、ウルヒは高らかに言った。


「ヒュールって、あのお貴族様の!?」


「そんなご子息様と同じクラスだなんて…」


そんな声が教室の各所から漏れ出た。


そんな様子を見かねたのか、先生が牽制する。


「もう一度言っておくが、この学園では身分差はないぞ。その傲慢な態度はやめたまえ」


ウルヒはむっとしているが、アークは一向に構う気配を見せず、次の生徒へと促した。


「ライム様が一番可愛いと思ったのは誰ですか?」


自己紹介も終わりに差し掛かったころ、ラッカルが尋ねてきた。


「バカ。俺はお前とは違ってガキじゃねーんだよ」


ライムがぴしゃりと言い返す。


「ちぇ、気になったのにな」


とラッカルは不満そうだ。


「そう言うラッカル的には良い人はいたのか?」


「そりゃミナちゃんですよ。一目惚れしちゃったかもです」


ミナちゃんって…。


「はぁーい、うち、ミナって言いまーす!ミナ、み・な・と仲良くしたい、なんちゃって☆」


と自己紹介で言っていた女子生徒だ。そう、彼女は前世でいうところの「ギャル」だ。まさか、そんなのがラッカルの好みだなんて…。あまりにも意外すぎて言葉が返せなかった。


彼は前世でその類の人種は最も苦手としていたのだった。どの大学にも一定数「ギャル」は存在していて、その独特な口調と見た目はどうしても受け入れられなかったのだ。もう成人しているんだから、そのくらい弁えたらどうだ、と叫びたい気分になることもしばしばあったくらいだ。


「ライム様?」


「ん?あぁ、少し考え事をな」


ライムが返答しなかったからなのか、ラッカルが少し心配そうにこちらを見ていた。


「次はカリキュラムについて説明するぞー」


いつのまにかクラスメート全員の自己紹介は終わっていたようだった。


「…と言っても、一年にはコース分けはないんだけどな」


と言って話し始めた。曰く


・この学園では1年を三つの「シーズン」に分けている(前世で言うところの「学期」かな?)


・「シーズン」ごとで、クラス単位の競争を行い、同時に個人の「成績ポイント」も集計される。


・その個人での「成績ポイント」の合計がクラスの順位になる。


・「成績ポイント」が一定数を超えると飛級試験が受けられ、そのテストに合格すると飛級ができる。


・ただし、飛級をするには一つの学年で2シーズンを過ごす必要がある。


・1つの学年で3シーズン過ごすと自動的に昇級できる。しかし、そこで必要な分の「成績ポイント」がなかった場合はその人は留年となる。


・2年次以降は学びたい分野を「コース」として学ばなくてはならない。その「コース」は複数選択することも可能である。


…などである。


つまり、最速で2年でここを卒業できるということだ。


「よし、ラッカル、決めたぞ」


「はい?何をです?」


「俺は飛級を目指す。そして、この学園を最速で卒業してみせる」


「!?それがどれだけすごいことか分かってます!?」


「それは知らんが勉強するだけだろ?」


「それはそうですけど…、数十年に一度くらいしか最速卒業ってできないんですよ?そして、その人たちのほとんどはここの学園長をやるそうですよ。もちろん、今のクラベル先生も含め、です」


ライムは少し驚いた。そんなに最速卒業って少ないものなのか。しかも、学園長も数少ない最速卒業者であるなんて…。


「でも、ライム様ならなんだか行ける気がします」


「気がする、じゃなくて、やるんだよ」


「あ、そうそう、今までは軽く『飛級』とか言ってきたけど、そんな簡単じゃないぞ。生半可な努力じゃ、絶対にできない」


と先生が忘れていたかのように付け足した。


難しい?上等だ、とライムは思った。


自分の夢を叶えるためにはショートカットできる部分は徹底的にするべきだ。その夢が大きなものであるが故に。

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