第10話 記憶


『まいごになっちゃった……』


   綺麗に整えられた庭園の隅で蹲る。五歳を迎えた私は、お婆様に連れられて王城を訪れた。見るもの全てが珍しく興奮していると、お婆様からはぐれてしまったのだ。


『あれ? きみは……まいご? だいじょうぶ?』

『うっ……うん。あ、けが……』


 茂みが揺れると、金髪の男の子が姿を現した。私よりも年下の彼は、私へと手を差し出してくれた。しかし、その手には包帯が巻かれ、血が滲んでいる。私は咄嗟に彼の手を包むと、治癒魔法をかけた。


『おどろいた……まほうがつかえるんだね……』

『ふふっ! おばあさまに、おそわったのよ』


 私の隣に腰掛けると、包帯を解き傷の具合を確認する男の子に私は胸を張る。お婆様は凄い魔法使いなのだ。


『すごいね。ぼくも、まほうはすきだけど、けんがにがてだよ……』

『けん? だから、てをけがしていたの?』


 苦笑交じりに頬を掻く少年の怪我は、剣の訓練によるもののようだ。王城に出入することが出来ているということは、騎士団の見習いなのかもしれない。


『そうだよ……』

『にがてでも、がんばっているのすごいわ。でも、ほんとうに、こまったときは、わたしがたすけてあげるわ!』


 苦手なことにも一生懸命に頑張っている男の子に、私は励ます言葉を口にする。年下の子を守るのは年上の役目だ。お婆様からも力は、人の為に使うものであると教わっている。


『そっか……ありがとう』

『う……うん』


 男の子は紺碧の瞳を見開いた後に、柔らかく微笑んだ。その笑みに胸が苦しくなり、頬が熱くなるのを感じる。


『アン! アンネット! 何処ですか?』

『あ……おばあさまだわ!』


 遠くから私を呼ぶ、お婆様の声が響く。


『まって! あの、これあげる……』

『えっ!?』


 立ち上がった私に、男の子が紺碧色の手帳を差し出した。出会ったばかりの人物からの贈り物に、私は思わず驚きの声を上げる。


『これは、まほうてちょう。つかうひとか、きょかがあるひとだけが、よめるようになっているよ』

『はじめてみる……。でも、そんなに……すごいものを、もらっていいの?』


 丁寧に魔法手帳について説明をしてくれるが、お婆様の書斎でも見たことない魔法道具である。きっと高価で貴重なものだろうと、漠然とした予想を感じた。


『うん。であえた、しるしに』

『……ありがとう』


 力強く頷く彼の好意を無碍にするのは良くない。私は両手で紺碧色の手帳を受け取った。

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