彼女はカルテに嘘を書く
柊 祐乃
序章 カルテに書かれなかったこと
私は、診察室で“人の死”を見たことがある。
それは心停止でも、出血多量でもない。
もっと静かに、音もなく──人が壊れていく音だった。
彼女は笑っていた。
「先生、不倫って病気ですか?」
私は、カルテに何も書かなかった。
あの日のことは、私の中にだけある。
そのとき、私はまだ知らなかった。
あの一言が、いくつもの嘘と事件を連れてくるなんて。
次回、第一話:診察室の違和感
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