事件発生

 翌朝、目覚まし時計から発せられる爆音で飛び起きた。耳元に置くべきではなかった。朝っぱらから頭がガンガンするのは、癪に障るからな。

 今は午前五時ちょっと過ぎ。とりあえず、弁当の準備をするためにキッチンへ向かった。とは言っても、三分の二ぐらいはレンジでチンだから、そこまで時間はかからない。他には、炊飯器から取り出した炊きたての白米を入れて、その上に生のりをのせたり、卵焼きを作ったりするぐらいだ。

 完成した弁当箱を弁当袋に入れて、机の上に置いた。

 俺の朝食は炊いた白米に納豆をのせて、その横に味噌汁を置き、コップに牛乳を注いだシンプルなものだ。

「いただきます」


「ごちそうさまでした」

 食べ終わり、顔を洗って歯を磨き、制服に着替えた。後は、いつもの家をでる時間になるまでの間を、スマホをいじって過ごすだけだ。

 すると、学校から連絡が来ていることに気がついた。その内容に、俺はこれ以上なく驚いた。

 なんと「校舎を爆破する」という手紙が学校に届いたらしい。そして、念のため今日は休みにするんだと。弁当を作った意味がなくなってしまった。

 さて、どうしようかと考えていると、ノゾミからメールが来た。

<ハル先輩!見ました!?>

<学校に爆破予告が来たってやつ?>

<そう!それです!>

<大変だよな〜>

<な、なんか妙に落ち着いてません?>

<だって、別に本当に起こるわけじゃないんだろ?>

<いやわかりませんよ!?もしかしたら本気かもしれません!>

<そんなことはないだろ>

 しかし、学校が予期せぬ休みになると嬉しい一方、暇でもある。そうだ。せっかくだし、ノゾミを誘ってどこかに遊びに行ってみようか。

<なあノゾミ>

<どうしました?>

<今日なんか予定あるか?>

<学校に行く以外の予定はありませんでした。え?なんですか?デートの誘いですか?>

<いや、遊びの誘いだな。どうだ?遊園地にでも行かないか?>

<大丈夫ですか?外出を控えるようにって学校からのメールに書いてありますが>

<平気平気、バレやしないって>

<まあ、それもそうですかね。じゃあ、行っちゃいましょうか>

<OK。じゃ、駅前集合で>

< >w< >

 駅はこのアパートからだとバスに乗ってそこそこ行ったところにある。そこまで遠くない。それもこのアパートを選んだ理由の一つだ。さあ、鞄に財布を入れて、いざ出発。


 さてさて、駅に着いたのはいいのだが、俺の後ろにヒスイがついてきているのはなぜだ?偶然バスの中で出くわして「おやおや、奇遇ですね〜。どこに行くんですか?」とか言ってきて、今に至る。うん、やっぱり分からない。どんな思考回路してたら偶然合っただけのクラスメイトのあとについてくるんだよ。

 そして、後から来たノゾミと合流して三人で遊園地に向かった。

 電車に乗っているとき、隣に座っているノゾミが小声で聞いてきた。

「ハル先輩、なんでヒスイさんもいるんですか?」

「いや、俺にもわからねぇよ。だって、バスでたまたま会っただけで、当たり前のようについてきたんだぜ?」

「そ、そうなんですか…」

「むむ!二人とも!そろそろつきますよ!」

「お、おう。そうだな」


 駅からでて数分歩いて、遊園地に到着した。平日だからか人が少なく、列に並ぶことにはならなそうだ。

 どこからいくべきか…正直、遊園地とか、全然来たことないからどんなものがあるのか分からない。

 あそこにあるお化け屋敷は…この二人が怖がるところなんて想像もできないし、俺があんまり得意じゃないから無理だ。怖いんじゃない。得意じゃないだけだ。勘違いするなよ?

 俺が頭を悩ませていると、ヒスイが口を開いた。

「とりあえず、どこに行くかはジェットコースターにでも乗りながら考えませんか?」

「ヒスイ…お前はジェットコースターに乗りながら冷静に次乗るものを考えられるのか?」

「まあまあハル先輩、せっかく来たんですから、いろいろ乗りましょうよ」

 お前もそっち側かい。でもまあ…。

「確かに。せっかくだしな」

 

 それからあっと言う間に時間は過ぎていった。結局お化け屋敷にも連れて行かれた。とにかく、もうしばらく来なくていいと思えるくらいには楽しめた。

「そろそろ帰らなきゃだな」

 俺が今日の思い出に浸りながら言うと、ヒスイが声を上げた。

「そうですね!どうです?最後に観覧車にでも行きませんか?」

「いいですね!行きましょう、ハル先輩」

 ノゾミとヒスイは今日一日でそこそこ仲良くなったらしい。会ったばっかりなのに大したものだ。これが陽キャの力か。


 観覧車はゆっくりと上へ上がっていく。空は若干紫がかっていて、俺が着ているワイシャツがオレンジ色に染まる。

「そういえば、手紙の件はどうなったんですかね?」

 ノゾミが呟いた。そうだった。今遊園地にいるのは爆破予告のせいだった。いや厳密にいうと違うが、爆破予告のせいってことにしておこう。

「まあ、明日あたりから普通に学校再開するんじゃないか?」

「ん?それはないですよ?」

「は?」

 ヒスイに否定され、俺は彼の目を見た。なぜそんなにはっきり言えるんだ?

「爆弾はしっかり仕掛けられているんでね」

 ん?何を言っている?

「な、なんでそんなことが分かるんですか?」

 当然、ノゾミは驚いて問いかけたが、ヒスイはノゾミの疑問をスルーして、一つの質問を投げかけてきた。

「もし、貴方がたがこの事件を解決できるとしたら、どうしますか?」

「はい?」

「何を言って……」


 困惑する俺達を、ヒスイは笑顔で見つめている。

 このときの俺達はまだ、これが世界を巻き込みかねない大事件の始まりだとは、知りもしなかった。

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