第12話・知識という名の武器を磨け
チュンチュン、チュンチュン……
「ゔぅ……ぁ……もう、朝……?」
小鳥の鳴き声と窓から覗く朝日で目が覚めた俺は、ベッドで寝ている体をゆっくりと起こした。
俺はぐーっと伸びをすると、思わずあくびが出てしまう。
「ッ!? なんかめっちゃ背中痛いんだけど……昨日ぶっ倒れたりしたか?」
俺は昨夜のことを思い出そうとするが、果実酒を一気飲みしてからの記憶が一切ない。
俺は一体、いつどうやって宿に帰ってきたのだろうか。
(俺、なんもやらかしてないよな……?)
ベッドから降りた俺は不安に思いながら、背中に痛みを感じながら朝の支度を始めた。
「あら、おはようベリル」
部屋から出て店主に声をかけた俺は、そのまま食堂に足を運んだ。
中に入ると、先に朝食を食べ始めていたリーフが、食べる手を止めて話しかけてくる。
「おはよリーフ。なあ、昨日って俺らどう帰った?」
「えーとね……ふふっ」
俺がリーフに問いかけると、なぜか彼女は笑い声を漏らした。
「昨日、ベリル酔い潰れちゃってたから、私が精霊に頼んで運んでもらったのよ。そしたら……ふふっ、地面をずるずる引きずられて。絵面が酷かったわよ」
背中の痛みの原因――リーフの精霊。
昨日ジグをぶん殴ってたのもそうだが、暴力性があまりにも高い気がする。
「精霊に言っといとくれよ、人にはもっと優しくしなさいって」
「べろべろに酔っ払う方が悪いわよ」
俺の言葉に対してリーフはそう答えると、味噌汁を飲みだした。
そんな彼女の対面の席に、俺はゆっくり腰掛ける。
「はいお待ちどおさん! 今日は焼きおにぎりだ!」
店主がお盆を持ってくると、俺の目の前に置いた。
お皿に盛り付けられていたのは、こんがりと美味しそうな焼きおにぎりだ。
「いただきます」
さっそく俺は焼きおにぎりに手を伸ばすと、ひとつを手に取って口に運ぶ。
まず感じたのは醤油のようなうま味に、カリカリとした食感。
そして、噛み締めるごとにお米の甘さが溢れてくる。
「久しぶりに食べたけど、やっぱり美味いな……」
「あら、食べたことがあるの? 焼きおにぎりってベリルがいた国にもあったのね」
彼女はそう言うと、コップに入った水を飲む。
そっとコップをテーブルに置いたリーフは、再び口を開いた。
「そういえば私、ベリルにこの首のお金について話するって言ってたわね。せっかくだし、今からしちゃいましょうか」
そう言って彼女が取り出したのは、一切膨らんでいない古びた皮袋だった。
リーフは袋の中に手を伸ばすと、取り出した硬貨をテーブルにどんどん並べていく。
「それじゃあ説明していーー」
「ちょっと待て、まずその袋はなんだ?」
潰れている袋から普通に硬貨が何枚も出てくるのは、明らかに物理法則に反してる。
俺の言葉に一瞬きょとんとしたリーフは、すぐに納得したような表情を浮かべると話し始めた。
「この袋はね、マジックバッグって言う
そういえば、ゲーム内でマジックバッグを使用しているNPCがいたな。
こっちの世界ではダンジョンからドロップするのか。
「なるほど、教えてくれてありがとう」
「別にいいわよ。それじゃあ説明を始めるわね」
この大陸でのお金の単位は、レーンと言うわ。
硬貨は全部で6種類あって価値の高いものから、
白金貨ー100万レーン
金貨ーー1万レーン
銀貨ーー1000レーン
大銅貨ー100レーン
銅貨ーー10レーン
鉄貨ーー1レーン
となっているの。
あと、硬貨の表に描かれているのは、古代の勇者――タナ・カジーロ。
そして裏に描かれているのが、造幣された国のシンボルよ。
「説明はこんなところかしら」
「なるほど……ひとつだけ桁が違くない?」
「多分だけど、貴族や王族やらが財力を誇示するためでしょ」
「あぁ、納得」
リーフの考えに対して、俺はそう呟く。
その時ふと、彼女に『海の洞窟』の宿泊代1週間分を払って貰ったことを思い出した。
「そういえば、ここの宿泊代は1泊でいくらなんだ?」
「1泊? 1泊はね、1万レーンよ」
そう言われた瞬間、焼きおにぎりを食べていた俺は動きを止めた。
手に持っていた焼きおにぎりが、お皿に落ちる。
「ま、まじか……」
こんな設備が整った宿屋なら、そんな値段になるのは当たり前か。
1泊1万レーンが7日間で、7万レーン。
金貨7枚をポンッと払ったリーフに対し、俺は感謝と同時に畏怖を覚える。
「別に感謝なんて必要ないわよ。そもそも、私たちのことを助けてくれたのはベリルなのよ? もしあんなに疲弊した状態でゴブリンロードと戦ってたら、重症は負っていただろうし下手したら死んでいたもの」
硬貨を袋に仕舞いながら、彼女はそう話す。
俺は残っていた焼きおにぎりを一気に頬張ると、味噌汁を流し込んだ。
「それじゃあ。私はこれから用事があるから、また夜にね」
そう言うとリーフは、手を振りながら食堂から出ていった。
(……助けられて、良かったな)
俺はそんなことを考えながら、コップに入った水を飲み干した。
「あ、そういや、リトルウィッチについて聞くの忘れてたな」
「ベリルさん、おはようございます!」
「ああ、おはようリナリス」
ギルドに入った俺はリナリスのところに向かうと、俺に気付いた彼女が声をかけてくる。
リナリスの手元には、昨日と同じようにいくつかの資料が置かれていた。
「今日は討伐依頼、でよかったですよね?」
「そうだな。採取も楽しかったが、やっぱり戦闘の方が俺には合ってるな」
俺がそう返事をすると、リナリスは安心したような表情を浮かべた。
彼女は手元の資料から1枚を選ぶと、押し付けるように俺に手渡してくる。
「えーと、なになに……ハーブラビットの討伐。肉や毛皮を納品した分、報酬を上乗せ、ね。そして証明部位は右耳と、なるほどな」
「ハーブラビットは、草原に多く生息する魔獣ですね。マリア草など薬草を食べてしまうため、討伐が推奨されているんですよ」
そう言ってリナリスが、ハーブラビットの説明を軽くしてくれる。
しかし俺は、そんな彼女の説明の一部分に、違和感を覚えた。
「なあリナリス、魔獣とはなんだ?」
そう、GSOの世界で出てきたのは魔物だけであり、俺は魔獣という存在は耳にしたこともなかった。
俺の問いかけを聞いたリナリスが、驚いた表情で勢いよく口を開く。
「ま、魔獣についてご存じないのですか!? えと、魔物は分かりますもんね……」
「魔物については大丈夫だ。魔素から生じる生命体のことだろ? とにかく魔獣についての説明が聞きたい」
俺がそう伝えると、リナリスは表情をキリッとさせてから話を始めた。
「魔獣とは、動植物が魔素の影響を受けて変異した存在のことを指します。そのため、魔獣は自然発生することがなく、繁殖でのみ数を増やすんです」
確かに、GSOの世界にはそもそも動物が存在していなかったからな。
これがゲームと現実の違いか。
「ありがとう。魔物と魔獣の違いがよくわかった。それじゃあ今日はこの依頼を受けよう」
俺はそう言うと、リナリスに依頼書を返す。
それを受け取った彼女は、笑顔を浮かべながら口を開いた。
「それではベリルさん、いってらっしゃーー」
「あ、そうだ思い出した。ダンジョンについて話を聞きたかったんだ」
昨日聞き忘れていたことを口に出すと、頭を下げようとしていたリナリスが不恰好な姿勢で止まった。
彼女は姿勢を正すと、「どうかされたのですか?」と冷静に尋ねてくる。
「ダンジョン侵入許可証って、どうやったらもらえるんだ?」
「許可証ですか。基本、挑戦したいとおっしゃられたダンジョンのランク以上の冒険者ランクの方には配布をしていますね」
「それじゃあ、あの森の中の新しいダンジョンのランクはいくつなんだ?」
「あのダンジョンは、現状ではEランクとなっています。ベリルさんの場合、この依頼を達成出来れば明日からは配布が出来ますね」
そう言うとリナリスは、「それでは、本日も頑張ってください!」と両手で握り拳を作った。
「よし、それじゃあ行ってくる」
俺は彼女にそう返事をすると、後ろを向いて歩き出そうとする。
ちょうどその時、ドアを通って1人の少女がギルドにやってきていた。
「ふぅ、やっと着いたわね……うん?」
少女は途中で立ち止まると、辺りを見渡したあとに俺と目が合った。
次の瞬間、彼女はどんどん俺に近付いてくると、口を開いた。
「……あなた、不思議な魔力をしてるわね」
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