第9話・ダンジョン

「あれ? リーフさん。今日はどうされたんですか?」


お昼頃に目が覚めた私は、塩むすびをお昼ご飯にいただいてから、冒険者ギルドに来ていた。

昨日も話しかけた受付の子に近付くと、彼女の方から声をかけてくる。


「失礼するわ。レーナは今いるかしら?」


「レーナさん、副ギルドマスターですか? はい、今はいらっしゃいますよ」


「彼女に話があるのよ」


私がそう伝えると、彼女は「承知しました」と言ってから裏に入っていった。

まあ、レーナはいつも通り暇してるでしょうし、すぐに話せるでしょう。


しばらくして、戻ってきた彼女が口を開く。


「副ギルドマスターはもうすぐ来るそうです」


「そう、それなら良かったわ。伝えてきてくれてありがとう」


「いえいえ、これが受付嬢のお仕事ですから」


彼女にお礼言っていると、奥の方からエルフの女がこちらに向かってきた。


「昨日はありがとうございました。本日はどうされましたリーフ様」


ギルマスと一緒に私たちから報告を聞いたエルフの女、彼女がここの副ギルドマスターのレーナだ。


「少し話したいことがあるの」


「わかりました、ではこちらへどうぞ。昨日と同様の部屋でお話いたしましょう」


私がそう伝えると、レーナは変わりない態度で返事をする。

昨日と同じ部屋に案内しようとする彼女に続いて、私は奥の通路へと進んでいく。

そして部屋に着いた途端、彼女の雰囲気が一変した。


「それでどうしたの? リーフ。昨日に続いて今日もなんて」


「どうせいつも通り暇だろうし、いいでしょ姉さん」


「いつも通り忙しいのだけれど?」


レーナは私のいじりに面倒そうに返事をすると、隠す気もなくため息をついた。

実は彼女は、私の血の繋がった姉である。


「ほら、昨日私たちと一緒に戻ってきて、そのまま冒険者登録した彼、いるでしょ?」


「えーと、確か名前は……ベリルだっけ? 彼がどうかしたの?」


姉さんが椅子に座りながらそう尋ねてくる。

対面の座席に私は座ると、姉さんの問いかけに返答した。


「言っていいのかわからないけど、彼のためにも姉さんに教えておくね。実は彼、この国……いや、この大陸の人じゃないの」


私がそう言い切ると、姉さんの顔が驚きと疑問で変な風になる。

姉さんは信じていなさそうな声色で尋ねてくる。


「……ほんと?」


「ええ、ほんとよ。彼の話によるとね――」


私はベリルから聞いた話を、姉さんにも伝える。

最初は半信半疑な雰囲気で話を聞いていた姉さんだったが、彼の様子や不思議な魔法の話をすると、明らかに表情が変わった。


「なるほど……わかったわ。教えてくれてありがとうリーフ。彼があなたの言ったら通りの人物なら確実に何かしでかすもの」


姉さんがそう言い終えると、私と彼女は笑い声を漏らした。

確かに彼なら、物凄いことをしでかしそうだ。


「そういえば姉さん、1ヶ月前に比べて冒険者が異様に増えてない? 私の気のせい?」


ふと気になっていたことを思い出した私は、姉さんに尋ねる。

ここの副ギルドマスターである彼女なら、確実に何かは知ってるはずだ。


「リーフ知らないの? ああそういえば、あなた達が出発した後だったわね」


「勿体ぶらないで早く教えてちょうだい」


なぜか肝心なところを言おうとしない姉さんを私は急かす。


「実はね、アーミナー大森林の中層にが出来たのよ、新しくね」


「ダンジョン!?」


私は驚きのあまり、椅子から立ち上がってしまう。

ダンジョンからは莫大な素材や財産が手に入るからか、発生した街は発展が約束されるだろう、なんて言葉もある。

そんなダンジョンがナートレアすぐそばに……


「まさかナートレアを離れてた1ヶ月の間に……まあ、それなら納得するわ。それで、もう攻略は進んでるの?」


私は冷静さを取り戻すと、椅子に座り直してから質問する。


「まだ全然ね。もともとナートレアには高ランク冒険者がいないし、『竜の剣』含む有力パーティーがちょうど依頼でね」


姉さんはそう言いながら、残念そうに首を振る。


「そうなの……私も早めに挑戦しようかしら?」


私はそう呟くと、まだ見ぬダンジョンに心を踊らせた。











「けっこうな距離歩いたなー」


ゴブリンの群れを倒した俺たちは、森の中を闊歩かっぽしていた。

途中、ウルフやまたまたゴブリンの群れに襲われたが、それらは全部返り討ちにした。


「マスター、目の前、広場」


「あれ、ほんとだな」


どんどんと進んでいくと、急に木々が取っ払われたような開けた場所に出た。

辺りを見渡してみると、冒険者らしき人影がちらほらと見える。


「マスター、あの洞窟みたいなの、なに?」


アストがそう言いながら、奥の方を指差す。

そこには、地面から入り口が迫り上がったような洞窟があった。

そして騎士のような格好をした2人の男が、洞窟の入り口の両脇に立っている。


「なんだあれ……? いや、待てよ」


俺はあの洞窟に既視感を覚えた。

そうだ、あれは洞窟型ダンジョンの入り口だ。


俺はアストにあれがダンジョンだということを伝える。


「理解。行ってみよ」


そう返事をしたアストは、俺を置いて先に走っていってしまう。

俺は手に待っていた剣を仕舞ってから、彼女に続いて歩き出した。


「ダンジョンに挑戦する場合は、冒険者証と侵入許可証を提示してください」


騎士の1人が、近付いてくる俺たちに気付いて声をかけてくる。

侵入許可証……?


「騎士、侵入許可証、なに?」


「冒険者ギルドに申請することで受け取ることが出来るタグですね。一般人や、未熟な冒険者の侵入を防ぐための物となっています」


アストが騎士に尋ねると、彼が優しく教えてくれる。

それにしても、ダンジョンに入るには許可証が必要なのか。

『一般人や、未熟な冒険者の侵入を防ぐための物』と言っていたが、無駄な犠牲を無くすためもあるだろう。


「攻略はどの程度進んでいるんですか?」


「まだ6階層までしか攻略できていないらしい。実はこのダンジョンは……まだ発生したばかりなんだ。それに、ダンジョン都市比べるとどうしてもなぁ」


俺の質問に、先ほどまで黙っていたもう1人の騎士が答えてくれる。

それにしてもダンジョン都市とは、初めて耳にした。

ゲーム内では存在しなかった言葉だ。


「騎士、ダンジョン都市、なに?」


「ダンジョン都市は言葉の通り、近辺にダンジョンがある都市のことだ。有名どころを上げるなら、この国にある大迷宮都市フォーレンスとかだな」



「やっぱり、ダンジョンのある街の方が、冒険者の集まりがいいんですね」


騎士の説明を聞いた俺は、思いついた考えを彼に話した。

すると彼は笑い声を上げ、大袈裟な反応をしながら返答する。


「当ったり前だ! ダンジョン攻略とは、ロマン溢れるお宝ハントだからな! だいたいのやつは、ダンジョンでの一攫千金目指して冒険者になるんだよ」


「そうですね。自分も小さい頃は、冒険者を目指しましたね」


もう1人の騎士が、彼の話に賛同した。

笑顔で話してくる2人に対して、俺はさらに質問する。


「ここのダンジョンではお宝とか見つかったんですか?」


「いんや。冒険者たちの会話を盗み聞きしてるが、そんな話は聞いたことないな。出てくるのはゴブリンばっからしい」



そう言って男が苦笑いを浮かべる。


「そういや、にいちゃん」


すると、彼は何かを思い出したかのように、再び口を開いた。


「連れのガキ、いつのまにか居なくなってたけど大丈夫なのか?」


「ッ!?」


その言葉に驚きながら、俺はすぐに横を向く。

つい先程までいたはずのアストは、なぜか幽霊のように忽然と消えていた。

気分屋な彼女のことだ、騎士との話に飽きて、森に戻ってしまったのだろう。


「すいません! お話ありがとうございました!」


俺はそう言い終えると、すぐに後ろを向いてそのまま走り出した。


(どこ行ったんだあのバカ!)











アーミナー大森林ダンジョン1階ーー




騎士とマスターが話をしている中、アストはダンジョンの中にいた。

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