ヘブンズ・テール・オンライン〜攻略不可能ボスの踏破者は、神ゲーVRMMOで最強を目指す〜

獣乃ユル

プロローグ

第1話 ファルス・ソード

 神ゲー、クソゲー。

 ゲームの出来を評価する際に用いる言葉であり、いつしかゲーマーの中では標準語になったようなミームでもある。


 神ゲーと呼ばれるゲームは、飛び抜けたグラフィックや没入感のあるストーリー、完成度の高いバトルシステムなどを持ち合わせる。

 華やかな賞に選ばれたり、メディアに取り上げられたりと──いわば、ゲーム業界の顔になる作品たちだ。


 一方、クソゲーと呼ばれる作品群がある。お粗末なグラフィック、唐突で整合性の取れないストーリー、理不尽なバトルシステム。

 思わず机をぶん殴りたくなるような、醜悪な作品たち。それらは、ゲーム業界の深淵である。


 なら、今俺がプレイしているゲームはどちらなのだろう。


「っ、ふぅ〜〜、やるか」


 俺はその問いに、「どちらでもある」と答える。


 ずば抜けたグラフィック、完成度の高いバトルシステム、理解は困難だが、考察すればするほど味の出るストーリー。


 そして、理不尽かつ強すぎる敵たちや、マップ構造。他の死にゲーと呼ばれるゲームに比べても、難易度が以上に高すぎるのが、このゲーム──「ファルス・ソード」。


 通称ファルソである。


 ゲームのあらすじを解説しよう。


 ストーリーの概要自体はありふれたものである。「魔王」と呼ばれる存在に滅ぼされた世界を旅しつつ、最終的には魔王を打ち倒して世界を平和にするというお話だ。


 そんな王道ストーリーを難解に描く上に、隠し設定も大量にあるものだからとてもわかりづらいのだが。


 だがそんなことは些事。このゲームの問題点は、先述した通り難易度である。


 軍隊のように統率の取れた動きを取り続ける雑魚敵、プレイスタイルによっては一撃死の攻撃を3フレーム(0.05秒くらい)で放ってくるボス、見えないところからの毒魔法……


 「人間におすすめできる難易度ではない」「人類卒業検定」「デスクトップでも高難度クソゲーなのに、なんでVRで作った」などなど、レビューを覗けば非難轟々である。


 しかし、カルト的なファンが居るのは事実。


 ありえないほどの高難易度マップに何十、何百、何千回と挑み続けて攻略したときの快感は、他のゲームと比べ物にならない。


 ファルソでしか感じられない歓びを知ってしまったプレイヤーは、取り憑かれたようにこのゲームに挑み続けることになるのだ。


 そして、その一人が俺だ。


 発売当初に何気なく買ったこのゲームに挑み、幾度となく敗北し、キレ散らかし、それでもプライドを胸に戦い続け……気づけば、廃人プレイヤーとなってしまっていた。


 神ゲーかつクソゲー。

 俺含めた廃ゲーマーを生み出した、親愛なるゴミ。そんな評価に落ち着く……


 そう、一番の問題は、本編クリア後のこのエリアに住んでいる。


 本編は近世ヨーロッパめいた雰囲気が漂うファンタジーな世界観だったのだが、この空間だけは違う。

 紅葉によって色とりどりに染まった木々に囲まれて、木漏れ日が静かに差し込んでいる。情緒のある日本風景、その真ん中に、


『灰者よ、燃え尽きたはずの残り火よ』

「……」


 俺の視線の先で、それはゆっくりと立ち上がる。


 身長はざっくり180cm。全身は純白の鎧で包まれていて、その背丈を超えるほどの大太刀を背負っているのが特徴的だ。


『何故立ち向かう。何故、滅びようとしない。……退かぬのなら、せめて』


 その声色は老人めいて震えたものでありながら、何処か怒りが含まれている。そのまま数歩、滑るように俺に歩み寄った。


 ゆらりとした体運びも相待って、その老人は煙が人の形を模しているような、儚さと脆さを兼ね備えていた。けれど


『この一太刀を、手向けとしよう』


 その大太刀を引き抜いた瞬間に、雰囲気が変わる。山脈を眼の前にしたかのような、荘厳さ。銃口を突きつけられているような、暴力的なまでの殺意。


『さぁ、最期の戦を始めよう」

「あぁ、やろうぜ」


 彼こそはこのゲームの裏ボス。

 彼に挑んだ者たちは数知れず。他ゲーのプロゲーマー、一ヶ月間毎日12時間配信し続けたストリーマー、開発者を名乗る者……


 だが、彼がその膝を地面につけることはなかった。


『我が名は「最後の英雄:伽藍ガラン」である』


 彼の名は、伽藍。

 討伐者0人の最強ボスである。

 



 彼を評価に含めた場合のこのゲームの総評は、元のモノと大きく異なるものとなる。誰にも攻略のできないコンテンツのあるアクションゲームなんて、他に例を聞かない。


 超絶高難易度、攻略不可能のクソゲー……それが、ファルス・ソードだ。

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