第4話「路地裏で見た違法なバトル」


夜のミアレシティ。煌びやかなネオンが灯る表通りとは対照的に、裏路地は不穏な静けさに包まれていた。


「ブイ……」


イーブイが耳を伏せ、警戒するように立ち止まった。佑真はそんな相棒の様子に気づき、慎重に足を進めた。


(昨日、ここで何が起きたんだ……?)


思い出すのは、あの異様な“バトル”。命令を無視できないように支配されたポケモン、無表情のトレーナー、黒く輝く装置——あれは絶対に、普通のポケモンバトルじゃない。


「この辺りだ……確か」


佑真が壁際を歩くと、焦げた痕や破損した壁が見つかった。昨日見たものと一致している。


「ブイ!」


イーブイが何かを見つけ、短く鳴いた。佑真が駆け寄ると、地面に金属片のようなものが落ちている。片面に刻まれた「EN」の文字。


(これは……何だ?)


佑真が拾い上げようとした、その瞬間だった。


「触るな」


背後から鋭い声。反射的に振り向いた佑真の視線の先には、黒いコートを羽織った男が立っていた。長身、鋭い目。街の空気が一瞬で張り詰める。


「君、ここで何をしていた?」


「……昨日ここでバトルを見たんです。普通じゃない、異様な……」


男は黙って佑真の様子を観察していたが、数秒後、ゆっくりと頷いた。


「そうか。見てしまったんだな」


「あなたは……?」


「神代。俺は、ある機関の一員だ。最近、ここで起きている“事件”の調査をしている」


「事件……って、やっぱりバトルが関係してるんですか?」


「言えることは少ない。だが、君が見たものは、確かに異常な現象だ。ポケモンを利用し、人を支配しようとする……そういう者たちがこの街には存在する」


「それって……」


神代は懐から小さな端末を取り出した。その画面には数人の人物の顔写真と簡単なデータが表示されている。その中には——佑真の学校の教師たちの姿があった。


「これは……先生たち……?」


「表の顔は教育者。だが裏では、ある目的のために行動している。詳細はまだ話せない。ただ、君には——選択の余地がある」


神代はもう一枚の紙を差し出した。それは、封印されたようなデザインの黒い招待状。


「この場所に来い。今後のことは、そこで伝える」


「なぜ俺に?」


「君は“見た”からだ。知ってしまった者には責任がある。そして——君には、それに立ち向かう“何か”があるように見える」


神代の言葉には、何かを隠している気配があった。だが、佑真の中で答えはもう決まっていた。


「分かりました。行きます」


「よく言った」


神代は短く笑みを浮かべ、すぐに背を向けて歩き去った。その姿が闇に溶けるように消えていくと、辺りに再び静寂が戻った。


「ブイ……」


イーブイが小さく鳴く。怖かったはずなのに、目には芯の強さが宿っている。


「行こう、イーブイ。俺たちの役目が、始まるかもしれない」


佑真は胸に湧き上がる不安を押し込めながら、路地を後にした。これが——日常から非日常への、最初の一歩だった。








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