第7話 海の声


 小さな頃にビートルズを聞いたと言うことは、1960年代に幼少期を過ごしたと言う事だろうか


 人間と同じ成長とは限らないが、彼女は一体何歳なのだろう?

 見た感じでは未だ10代半後半にしか見えないが、少なくとも60年以上生きている計算に成る


 それにしても、先程からの選曲が、まるで僕の心を見透かして僕の為に唄ってくれている様な気がする

 いや、神様じゃあるまいし、そんな馬鹿な …


「まさか、神様?海の女神様なのか?」


「んー、カミサ … ?良く分らない」

 だよね

 いくら何でも神様なんて ……

 いや、宇宙人もどうなんだろうな


「カズマ、魚食べる」

 突然、何か言い出したと思ったら、僕の手を引いて海へ走り出した

 とんでもなく力が強くて、とても抵抗出来ない


「カズマ、1人ダケ!わたしの歌声に気付いてくれタ!」


 表情筋が人間と同じなら、多分笑って喜んでいるのだろう

 ただ、口元に見える " 歯 " がギザギザに尖った牙なのを見るに、間違いなく肉食なのだろうな


 祖父の家は海辺に在る


 3分も走らず海へ到着したのだが、彼女は僕の手を離さないまま海の中へと身を投じた


 当然、僕も服を着たまま海中へ引きずり込まれる事になる


「ちょ待っゴボボッ!!」

 海中に入ったと思えば、とんでもない速度で海中を進む

 彼女の泳ぎ方は、何ていうかイグアナと同じで、身体全体と、長い尻尾をくねらせて進む


 そう言えば、あの時も200ノット370km/h以上の速度ですれ違っていた

 近頃はそう言う回避不可能な超高速魚雷も開発されている


 と言うか、水圧が苦しい!

 下手に身体を動かすと、脱臼どころか首の骨が折れかねない

 繋いだ彼女の手を強く握り返すと、やっと止まってくれて海上に顔を出せた

「ぶわあっっ!!死ぬかと思った!」


「どうシタ、カズマ?」

「あのね、人間は海中では息が出来ないんだよ」


「そうだった、ゴメンナサイ!?」


 ていうか、ここ何処?

 見渡す限り水平線だ

 島影の1つも無い

 祖父の家を出て5分も経って居ない筈なんだが


「カズマ大丈夫?」

「ん?あぁ、何とか生きてる」

 和磨は立ち泳ぎを止めて、海面に大の字に為り浮かんだ

 青い空に太陽が眩しい


 潜水艦に乗ってた頃は、海に出ていても太陽とは無縁だった


 何だか無性に笑いが込み上げて来る


 和磨は大海原の真ん中で、大声を上げて笑った

「ハハッ、アハハハハハハッッ!!」


 物心付く前に両親を亡くし、TVすら無い田舎と言うのも憚られる様な離島で祖父と二人暮らし


 友達も居ないまま自衛隊に入ったら、潜水艦に缶詰め生活

 流石にコミュ症のままでは成り立たなかったので、艦内に数人は気のおけない連中が居たけど、除隊して祖父まで居なくなってからは人生の目標とでも言う物が見えなくなって居た


 あのままでは知らない内に、自殺していても不思議じゃ無い


 気が付けば、とんでもない速度と水圧で、着衣が全て行方不明である

 要するに、スッポンポンの産まれたままの姿


 つくづくスマホや財布などを持って無くて良かったと思う

 と言うより、何て素晴らしい開放感!


 ふと横を見ると、彼女も和磨の真似をして大の字で浮かんで居た

 2つの大きな胸が波にユラユラと揺れるのを見て、自分の下半身が妙な事になる前に帰ろうと言う事にした


「あのさ、暗くなる前に帰りたいんだけど?」

「もうか?直ぐに着くよ!」


「いやっ、あのスピードはかなり危険だから!それに息が続かないから、出来たら頭は海上に出していたい … 」


「んんー、じゃあ、わたしの背中に乗って行くか!」

 と言う訳で彼女の背中に跨って肩にしがみ付いて帰る事になったのだが、見掛けに依らずと言うか見た目通りと言うべきか、彼女の身体は鱗に覆われているにも関わらず、凄く柔らかくドギマギしてしまい、矢張り下半身が大変な事に為らない様に気を使わざるを得なかった

 

 

 


 

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