第10話 いざイベント参戦! 真夏の戦場コミケへ、そして奇跡の出会い
【業務日誌 西暦2025年8月15日】
名前:海老原 魚男
<内容>
本日より夏季コミックマーケットに出展。新作の販促活動を開始する。江呉依英知もブース設営から販売までの一連の業務に投入された。
<所感>
真夏の戦場。萌えの熱気は、物理的な暑さを凌駕する。江呉依英知の常識保護膜はすでに過去の遺物。彼はこの熱狂をどう吸収し、自身の萌えを昇華させるか。興味深い観察対象。
ステータス更新
江呉依 英知:高揚ゲージ:70% 疲労度:60% 業界認識度:深化中
社長(天使まこと):販促モード:最大 萌え布教欲:99%
毒島 レイ子:同人誌配布モード:起動中 人間心理分析:継続中
小鳥遊 ひより:自作販売モード:起動中 変態性:測定不能
海老原 鯖男:感情出力:0.00001% 作業効率:99.99%
倫理審査とパッケージデザインのやり直しという二重の壁を乗り越えてから、約四ヶ月の月日が流れた。春の桜は散り、梅雨の湿気を経て、容赦ない真夏の太陽が地上を照りつける季節になっていた。この四ヶ月間は、まさに怒涛の制作期間だった。俺はインターンとして、デバッグ、データ調整、そして社長の性癖に関するさらなる雑務に追われ、気がつけば季節は大きく移ろいでいた。疲労は蓄積しているものの、完成したゲームへの期待感が、俺の心を満たしていた。そして今日、俺たちは、真夏の戦場へと足を踏み入れる。コミックマーケット、通称コミケ。エロゲメーカーにとって、最大の販促イベントだ。
東京ビッグサイトの巨大な建物が、真夏の太陽の下、ギラギラと輝いている。朝早くから、すでに会場周辺には長蛇の列ができていた。その熱気に、俺はまず圧倒された。これが、萌えの戦場か。俺は、社長の天使まこと、シナリオライターの毒島レイ子、原画家の小鳥遊ひより、そしてプログラマーの海老原鯖男と共に、エンジェルソフトのブース設営に当たっていた。
「英知てんし! もっと早く! 萌えは時間との戦いてんし!」
社長が、汗だくになりながら指示を飛ばす。彼女の顔はすでに真っ赤だが、その瞳はギラギラと輝いている。レイ子は、無言で淡々と段ボールを運び、小鳥遊ひよりは、汗で張り付いた前髪を気にしながら、ブースの飾り付けをしている。海老原鯖男は、相変わらずフードを深く被ったまま、驚くべき速さで机を組み立てていく。彼の動きには、一切の無駄がない。俺もまた、汗をだらだらと流しながら、必死に設営を手伝った。猛暑の中での汗だくの設営は、まさに肉体労働だ。しかし、この熱気が、俺のクリエイターとしての情熱をさらに燃え上がらせるのを感じた。
設営が終わり、開場時間が迫る。会場内は、すでに熱気でムンムンしている。俺は、ブースの前に立ち、押し寄せる人の波を眺めていた。この中に、俺たちの作ったゲームを待っている人がいる。そう思うと、胸の奥で期待感が感情を膨張させた。
開場と同時に、人の波がブースに押し寄せた。長蛇の列が、あっという間にブースの前に形成される。俺は、販売担当として、ゲームのパッケージを手渡し、お釣りを受け取る。ファンとの交流。それは、俺にとって初めての経験だった。
「このゲーム、ずっと楽しみにしてました!」「神ゲーでした!性癖にクリティカルヒットしました!」「このキャラ、尊いです!」
ファンからの熱い言葉が、次々と俺の耳に飛び込んでくる。彼らの瞳は、俺たちと同じように、萌えへの情熱で輝いている。その言葉一つ一つが、俺の心に深く響いた。俺が情熱を注ぎ、仲間と共に苦労して作った作品が、こんなにも多くの人に愛されている。その事実が、俺の胸に「喜び」と「達成感」を感情を膨張させた。
小鳥遊ひよりは、ブースの隅で自作の変態イラストを販売し、レイ子は意味深なタイトルの同人誌を配っている。社長は、ファンに熱烈な性癖トークを繰り広げ、時には「今日のシコリティは足りているかてんし!?」と問いかけている。そのカオスな光景も、今となっては俺にとっての日常だ。
そんな熱狂の中で、突然、一人の青年が俺の目の前に現れた。彼は、俺たちのゲームのパッケージを手に、興奮した様子で俺を見つめていた。
「あの……江呉依さん、ですよね?」
青年は、俺の名前を呼んだ。俺は驚いた。なぜ、俺の名前を知っている??
「俺、あなたのブログ、ずっと読んでました! あの、デバッグ日誌の……」
青年の言葉に、俺はさらに驚いた。俺がこっそり書いていた、デバッグ作業の裏側を綴ったブログ。まさか、それを読んでいるファンがいるとは。俺は、羞恥と同時に、自分の努力が報われた喜びが感情を膨張させた。
「このゲーム、本当に最高でした! 特に、あのバグ修正後の隠しコマンド……あれを見つけた時、本当に感動しました! クリエイターさんの遊び心と、作品への愛が、ひしひしと伝わってきて……俺、あの時、泣きました!」
青年の言葉は、俺の心に深く突き刺さった。彼は、俺が苦労して修正したバグ、そして海老原鯖男が仕込んだ隠しコマンドまで、全てを理解し、感動してくれたのだ。自分の努力が、確かに誰かの心を動かした。その事実が、俺の胸に「深い感動」を感情を爆発させた。視界が滲み、喉の奥が熱くなる。俺は、人知れず涙を流した。それは、疲労の涙でも、悔しさの涙でもない。純粋な「喜び」と「達成感」の涙だった。この瞬間、俺の「クリエイターとしての価値観」が確固たるものとなった。俺は、このために、この業界に飛び込んだのだ。
イベント終了後、俺は疲労困憊の体をブースの隅に投げ出し、今日の出来事を反芻していた。すると、社長の天使まことが、どこからか「謎の同人誌」を持ち出してきて、俺の目の前に差し出した。
「英知てんし! 今日の頑張りへのご褒美てんし! 私の性癖が詰まった、至高の同人誌てんし!」
社長の顔は、汗と疲労でぐったりしているが、その瞳は、まるで子供のようにキラキラと輝いている。俺は、その同人誌を受け取った。表紙には、社長らしい過激なイラストが描かれている。俺は社長の「性癖の深さ」に「呆れ」つつも、同時に、このカオスな環境の中で、自分を認め、導いてくれる彼女への「親愛の情」が感情を膨張するのを感じた。この萌えの戦場で、俺は確かに一歩を踏み出したのだ。
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