第4話 萌えの衝突! キャラデザ会議、性癖と性癖のぶつかり合い
【業務日誌 西暦2025年4月4日】
名前:海老原 魚男
<内容>
昨日、江呉依英知の母親が来社を試みたが、社長の「萌えは物理法則を超えるてんし!」という謎の主張と、毒島レイ子の「人間心理の深淵を覗きに来たのね…」という不気味な歓迎により、玄関前で引き返した模様。本日は新作のメインヒロインのキャラデザ会議。
<所感>
江呉依英知の常識保護膜は完全に消失したと推測。彼の顔色は相変わらず蒼白だが、瞳の奥に微かな光が宿り始めた。萌えの洗脳は順調に進んでいる。
ステータス更新
江呉依 英知:常識保護膜:完全消失 萌え耐性:上昇中
社長(天使まこと):性癖全開モード:起動中 議論ボルテージ:99%
毒島 レイ子:人間心理深淵モード:起動中 シナリオ支配欲:88%
小鳥遊 ひより:萌えポイント探求モード:起動中 変態性:測定不能
海老原 鯖男:感情出力:0.2% 会議参加率:10%(精神)
昨日の地獄のような電話から、一夜が明けた。母親が本当に会社に乗り込んでくるのではないかという恐怖で、俺はほとんど眠れなかった。朝、重い体を引きずるようにオフィスに向かうと、社長の天使まことと、毒島レイ子が玄関前で何やら言い争っているのが見えた。社長が「萌えは物理法則を超えるてんし!」と叫び、レイ子が「人間心理の深淵を覗きに来たのね…」と不気味な笑みを浮かべている。どうやら、母親は玄関前で引き返したらしい。その光景に、俺は安堵と同時に、この会社の常識は本当にどこにも存在しないのだと、改めて認識させられた。俺の常識保護膜は、もはや完全に消失したのだろう。顔色は相変わらず最悪だが、心臓の鼓動は少しだけ落ち着きを取り戻していた。
午前中、疲労困憊の俺は、海老原鯖男の隣でデバッグ作業を続けていた。彼のキーボードを叩く乾いた音だけが、このカオスなオフィスの中で唯一の秩序を保っているかのようだった。昼過ぎ、社長が突然、オフィス全体に響き渡る声で叫んだ。「さあ、英知てんし!今日は新作のメインヒロインのキャラデザ会議てんし!アンタも同席するてんし!」
俺は内心で戸惑った。インターンとして入社してまだ数日。こんな重要な会議に、いきなり参加させられるのか?しかし、社長の目は、有無を言わさない輝きを放っていた。会議室──という名の、資料とカップ麺の空き容器が山積みにされた一角に、社長、レイ子、小鳥遊ひより、そして俺が座った。海老原鯖男は、いつものようにフードを深く被ったまま、会議室の隅のPCに向かっている。彼の存在は、まるで背景の壁と同化しているかのようだ。
会議が始まると、俺はまずその熱量に圧倒された。社長、レイ子、小鳥遊の三者三様の「萌えの哲学」が、激しくぶつかり合う。まるで、三つの性癖が火花を散らしているかのようだった。
「今回のヒロインは、もっとこう……魂を揺さぶるような、エモーショナルな萌えが必要てんし!アホ毛は3mmずらすてんし!この3mmが、絶望と希望の狭間を表現するてんし!」社長が、ホワイトボードに描かれたラフスケッチを指しながら熱弁する。彼女の瞳は、萌えへの狂気的な愛でギラギラと輝いている。
それに対し、レイ子が冷たい声で反論した。「社長、それは表層的な萌えに過ぎません。彼女の魅力は、内面に秘められた『業の深さ』にこそある。胸のサイズはFカップで構いませんが、揺れは控えめに。ただし、汗で張り付く表現は必須です。そこにこそ、彼女の『肉欲と精神の葛藤』が凝縮されるのです。」レイ子の言葉は、まるでホラーゲームのシナリオを読み上げているかのようだ。彼女の指先が、スケッチの胸元をなぞる。
「ああ…! その体液の表現、至高ですぅ~!」小鳥遊ひよりが、恍惚とした表情でレイ子の言葉に同意する。彼女は、自分のスケッチブックを広げ、そこに描かれた太もものデッサンを差し出した。「この筋肉の隆起からの、この血管の浮き出方……! そして、この太もものシワはもっとリアルに、まるで太ももだけで物語が語れるように……! ああ、至高です!」普段のおっとりとした口調からは想像もできないほどの早口で、彼女は性癖の細部を語り始めた。その熱量に、俺は思わず後ずさった。
俺は、彼らの議論に「戸惑い」と「違和感」を覚えた。一般の会議とは全く違う。しかし、同時に、彼らの「作品への異常なまでの執着」に、得体の知れない「感動」と「畏敬」の感情が膨張していくのを感じた。彼らは、ただの変人ではない。彼らは、自分たちの「萌え」を、命を削って形にしようとしている、本物のクリエイターなのだ。エロゲ制作の奥深さに触れ、俺のクリエイターとしての認識が、また一段階深まる。
社長が突然、机を叩いた。「これでは私の童貞が疼かないてんし!もっと…もっとだてんし!」その叫びに、会議室の空気が一瞬凍り付く。結局、デザインはまとまらず、議論は平行線を辿っていた。俺は、このカオスな状況にどう対処すればいいのか、思考が停止していた。
その時、社長が突然、俺の方を向いた。「そうだ、英知君の意見も聞いてみるてんし!」
「えっ、俺ですか!?」
まさか自分が意見を求められるとは。俺の心臓は、驚きで激しく脈打った。性癖を試される興奮が、感情を膨張させる。しかし、同時に、この会議の空気を壊してはいけないという責任感も湧き上がってきた。俺は、必死に頭を回転させた。彼らの議論を聞きながら、自分なりに感じた「萌え」の可能性を、言葉にしようとした。
「あの、その……ヒロインの、その……普段はクールなのに、ふとした瞬間に見せる、ちょっとだらしない表情とか、寝起きで髪が乱れてる姿とか……そういう、ギャップ萌えが、性癖に刺さるんじゃないかと……」
俺が恐る恐る意見を述べると、会議室が静まり返った。社長の目が、さらに大きく見開かれる。レイ子は、血のようなソースのケーキを食べる手を止め、俺をじっと見つめた。小鳥遊ひよりは、恍惚とした表情のまま、固まっている。
「……至高てんし! そのギャップ萌え、私の魂を揺さぶるバイブレーションてんし!」「……なるほど、人間心理の深淵に潜む、新たな萌えの形……」「ああ……そのだらしない表情からの、体液の表現……! 至高ですぅ~!」
社長、レイ子、小鳥遊の三人が、一斉に俺の意見に食いついてきた。彼らの興奮は、まるで伝染病のようにオフィス中に広がり、海老原鯖男のキーボードを叩く音すら、わずかに速くなったように聞こえた。俺の提案が、まさか彼らの性癖にクリティカルヒットするとは。俺は、喜びと、ほんの少しの恐怖が入り混じった感情を膨張させた。この会社は、本当に何が起こるか分からない。
会議は、俺の提案を基に、新たな方向へと進んでいった。俺は、エロゲクリエイターとしての第一歩を、確かに踏み出したのだ。この萌えと性癖の戦場で、俺はどこまでいけるのだろうか。
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