第6話 ダンジョン


 扉の中は、何も無い無機質な部屋だった。

 ただ、真っ白な壁と天井に囲まれる中、対面の壁一面だけが剥き出しの岩と土で出来ていた。


 そして、その剥き出しの岩壁には、洞窟を思わせるような大きなダンジョンの入り口が俺を待ち構えていた。


「なるほど……ダンジョンの入り口はこんな風になってるんやな……」


 思わず独り言ちてしまったが、俺はゆっくりと入り口へ近付いて行き一つ深呼吸する。


 入り口に顔を近づけて中を覗き込もうと思っても、真っ黒の壁があるかのように何も見通す事は出来ない。

 ダンジョンの外観に様々な種類があるという事は知っていたが、入り口はどれもこんな感じなんだろうか?


 中の様子が一切見えないと言うのは、なかなか躊躇させられる。一番最初にここへ飛び込んだ人達は、一体どんな心境だったのだろうか……。

 そんな先人達のおかげで、俺は少しの不安に襲われるだけで済んでいる。感謝感謝。


 ——という事で、俺は意を決してダンジョンの入り口へ足を踏み込んだ。


 踏み込んだ瞬間、何か膜のようなものを通り過ぎた感触があったが、そのまま身体ごと入り口を通過した。

 すると中は、外から地続いているかのような洞窟だった。


 俺は一瞬混乱してすぐ後ろを振り返ったが、そこにはちゃんと黒い壁がある。どうやらここがダンジョン内なのは、間違いないようだ。

 恐らくこの壁は、外界とダンジョンを隔てるような存在なのだろうと、なんとなく理解した。

 ふいに思いついて手だけを洞窟の外へ出してみると、やはりもう一度膜を通過する感触を味わう事が出来た。


 落ち着いた俺は、改めてダンジョンを進もうと、洞窟の奥へ向け歩き始めた。


 歩きながら、背負い鞄のサイドポケットから刃渡り二十センチ程のサバイバルナイフを取り出し、腰のベルトに装備する。

 もちろん、ダンジョン産の鉱石で造られたサバイバルナイフだ。

 地球で取れる鉱石で造られたナイフでは、文字通りモンスターに刃が立たない。

 なので、多少値は張ったが、あらかじめ用意しておいた。


 ちなみに、このサバイバルナイフだけで三十万円もした。

 高校に入ってからちょくちょく引越しバイトなどをして貯めた金から払ったのだが、コイツのせいで貯金の殆どが吹き飛んだ。あとは数万ぐらいしか口座に残ってない。

 まだ学生だからいいが、社会人なら死活問題である。


 そんな事を考えられるぐらい余裕が出てきた頃、ふと何かが視界の端を横切った。


 足を止めてよくよく注視すると、三十センチぐらいの『魔ネズミ』が二、三匹走り回っているのが見える。

 ネズミにしては大きいぐらいのもんだが、コレでも一応モンスターだ。

 俺も実際に見るのは初めてだが、写真や映像では何度か見た事がある。


 魔ネズミ達は、俺の存在に気付いたようだが襲い掛かってくる気配は無い。


 それもその筈、何故なら魔ネズミは人間にとって無害なモンスターだからだ。

 こういう人間を襲わないモンスター達は、総称して『非敵性モンスター』と呼ばれている。

 非敵性モンスターには、他にも『スライム』や『妖精』など、様々な種類がいる。


 そして、ダンジョン一階層では非敵性モンスターしか出現しない。この事は、大災害後すぐの調査で世界中に広く知られるようになった。

 俺がダンジョン内に入った後でも比較的余裕でいられたのは、これを知っていたからだ。


「……よっ!」


 俺は腰から抜いたナイフを手に取って、視界に映る魔ネズミの一匹へ投擲した。

 ナイフは勢いのまま飛んでいき、見事狙った奴の体に突き刺さった。


「よーし」


 俺は、黒いもやとなって消えていく魔ネズミの元へ近寄り、投擲したナイフを拾い上げる。


 モンスターは息絶えると、その場に魔石という物を残して、体は黒い靄となって消える。

 それがどういう仕組みなのかは、俺にもよくわからん。

 いずれ何処かの研究者が解明してくれるだろう。


 非敵性モンスターが残す魔石のサイズはビーズぐらいしかないので、わざわざ拾う価値が無い。魔石を残さない奴もいるらしい。


「っと、そんな事より——


 ダンジョン内で初めてモンスターを倒すと、人は『ステータス』という新たな力を手に入れる事が出来る。


 非敵性モンスターしか出現しないダンジョン一階層は、人類が安全にステータスを取得する為存在していると言っても過言では無い。

 というか、非敵性モンスターという存在が用意されているのはその為だろう、というのが研究者達の見解だ。




 ——それにしても。


「なるほど、これがステータスか」

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