第2話 死んだ僕と彼の話
世界には自分に似た人間が3人いるという。
眉唾な話だけど、もしそれが本当なら、別世界があるとして、そこに自分と瓜二つの人間がいる可能性はどれくらいだろう。
案外、同じ世界に自分以外の顔面が2人いる、という話よりは現実的な確率かもしれない。
「なんか偶然とは思えないよね、同じ顔面の人間が死んだと思ったら死後の世界でばったり遭遇、なんて」
「ここ、あの世なの?空の上じゃないの?」
「空の上は大気圏だよ。
それすら突き抜けたら宇宙だ」
「死んだらお星様になるって兄ちゃんが言ってた」
「死んだら人は死骸になるんだよ。
霊体があるかは不明だけど、星は宇宙を漂う岩屑でしかない。
それが、光を反射して光って見えるだけで、あれは人間の魂でもなんでもないよ」
「でも、お星様にお願いしたら嫌いな人達を殺してくれた」
「友達も殺したんでしょ?」
「……」
「その星が、人の心を持ってるなら君の友達を殺さない。
だから、その落ちた星は、君の魔法だと思うよ」
目の前の僕と瓜二つ……(体格は僕より小さいけど)の少年のいた世界は、魔法があるらしい。
人は生まれつき何かしらの適正属性を持ち、それに対応した魔法を扱える。
彼は闇属性の持ち主で、それは彼の世界で疎まれるものだった。
生まれた途端に殺されてもおかしくないけど、彼は親に捨てられて、ヤバそうな組織に奴隷として買われ、実験動物にされていた。
うちの世界でも育てられない赤子を殺す親とかニュースでよく出て来るけど、正直、幼い子供を虐待する家庭に比べればマシだと思う。
赤子に意思はないけど幼い子供に意思はある。
意思が出来てから殺される方が僕は辛いと思う。僕は……赤ん坊の記憶なんてないけど、3歳ぐらいの頃から物心が付き始めた。物心が付けば辛いとか苦しいとかいう感情を理解してしまう。その後で殺されるなんて、とても恐ろしく残酷だと思うのだ。
どうせ、そうやって我が子を殺そうとする親の下で無理矢理生き長らえたって幸せな人生なんて送れないだろう。
殺したくない、でも責任を背負いたくもないし面倒を見るなんて以ての外だから捨てました、なんて一番無責任で最低な行為だ。
「殺されたかった?」
「……うん、辛い事ばっかだったから。
何度も、恨んだよ。
でも、死にたくなかった。
周りの皆は苦しんで死んだから、僕もあんな死に方はしたくなかった」
「でも、最後には死んだんだ」
「うん……嫌いな人が死んで、好きな人も死んだら……もう、どうでも良いかなって」
……彼の魔法が星を落とすものなのか、星っぽく見えた別のものかは分からない。
たぶん、別物だと思うけど。僕、魔法のこと詳しく知らないし。
彼がどれだけ魔法の力を持っていたのかは知らない。
実験されてる間に無理矢理潜在能力を引き摺り出されるとか引き伸ばされるとかされていた可能性も高い。
そんな実験されていたら、一見無事でも寿命が削られていたり、心身の何処かに不調があってもおかしくない。
生きていたとして、彼の未来に幸せが訪れる可能性は低そうだ。
「君は、なんで、死んだの……?
家族、いたんでしょ……?」
「いたよ?でもあいつらは僕を守ってくれなかった」
悲惨過ぎる人生を送った彼の前じゃ、僕の苦しみは弱過ぎるかもしれない。
それでも僕は、間違いなく世界に絶望し、大人に絶望していた。
生きる事が苦しくて、助かりたいのに助かる道が見つからなくて絶望していたんだ。
「家族はね、世間体っていうのが大好きだったの。
虐められた子供がいる事は世間体を傷付けるから、あいつらは僕が虐められてる事実を隠したの。
僕を責めた。僕が登校拒否する事も拒んだ。
全部を僕のせいにしたよ?
虐められる僕が悪い、僕に原因がある、少し叩かれるぐらい、悪口言われるぐらい我慢しろって」
それが僕を生み育てた実の父と母だよ。
教師?あいつらこそ、事なかれ主義の最先端だ。
面倒臭そうな顔で「まずは互いに話し合って誤解を解消したらどうだ?」だって。
誤解って何?虐めの誤解って何?僕の苦しみは勘違いの筋違いって事?
所詮、あいつらは楽して毎日平和に過ごして金を貰いたいだけなのだ。
1円の得にもならない虐めの解決なんて面倒臭い事はやりたくない、それが本音なんだ。
「僕に味方なんていなかったよ?
まぁ、親はクソだけど、学費払ってご飯代は出してくれたし、君からすれば充分良い親かもしれないけどね……?」
「……僕らを買った大人も、餌はくれたよ?
毎日少しだけど、外を走る時間も与えられた。
高くてトゲトゲした檻に囲まれた外だったけど」
……実験動物に実験をする際、相手が極端に衰弱していたら参考になるデータが取れなくなるだろう。
たぶん、それを避ける為に最低限の健康を維持出来るレベルの食事と運動はさせていた、それだけだろうな。
「うちの世界は、たとえ虐げられてたとしても人を殺しちゃいけない世界なんだ。
人殺しはどんな理由があっても重罪。
そして、子供は常に親の手元で管理されなきゃいけない世界。
だからどんなに学校が苦しくて逃げたとしてもすぐに親の下に連れ戻されて、親が学校に行けって言う限りは行かなきゃいけないの」
「面倒臭そう……だね」
「面倒臭いよ?」
「でも、殺しちゃいけないのに、殺したの?」
「法が僕を守ってくれたら殺さなかったよ。
でも守ってくれない法を守るのが馬鹿馬鹿しくなった。
僕を守ってくれない大人の都合通りに生きるのも嫌だったし、虐められ続けるのも嫌だった。
虐めっ子はどんなに僕が止めてと言っても聞かなかったし、誰も僕を助けてくれないなら、僕を助けられるのは僕だけだった」
だから、後悔はない。
「生きにくい世界だったけど、最後は自分のやりたい事をやって死ねたんだから、僕はそれなりに幸せな死に方だったと思う。
人を殺したら罪を償わなきゃいけないのが僕の世界だけど、僕は償う前に死んだから逃げ得だ。
ザマァ見晒せ、大人ども、だよね」
でも、それは僕の話だ。
彼は、嫌いな奴らも殺せたけど友達も殺してしまった。
嫌いな奴らを殺す為に友達ごと殺す事を選んでしまったのだから、不幸だと思う。
でも僕にはどうしようもない。
だって、僕も彼も、死んでしまったんだから。
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