死神オフィスの日常

奈良まさや

第1話

注文の多いのモーニング


第一章 蝋燭の担当替え


オフィスビルの一角にある、誰も気づかない小さな部屋。そこで丸山は机に向かい、今日の担当リストに目を通していた。死神としての仕事も3年目になると、慣れというものができてくる。


「丸山くん、この蝋燭の担当変わってくれない?」


振り返ると、先輩の田中さんが手に小さな蝋燭を持って立っていた。炎は今にも消えそうなほど小さかったかが、大きさ太さ的には力強かった。


「まだ、しっかりとした蝋燭だとですよね」丸山は首をかしげた。


「上の子の保育所から呼び出しがあって、今すぐ出ないといけないの。『38度だって』大変。」

田中さんは慌てた様子で鞄を探りながら言った。

「あ、それ、長年この世界やってると、分かるようになるのよ。たぶん、今日死ぬね、この人」


丸山は蝋燭を受け取った。ラベルには「望月海斗・22歳・ホスト」と書かれている。


「丸山君の査定上げとくから、よろしくお願いします」


田中さんはそう言って足早に去っていった。


丸山は蝋燭を眺めながらつぶやいた。「昇進か。あんまり興味ないけど、主任クラスの鎌はカッコイイなと思ってるんだよなあ」

丸山が持ってるのは見た目、手動ハンディ草刈り鎌だ。


彼は立ち上がり、現世への扉を開いた。「楽しく仕事、してこよっと!」


第二章 予想外の遭遇


歌舞伎町のマンションの一室。1DKのさっぱりとした部屋に、望月海斗は住んでいた。ホストとしては上位クラスに稼いでいる22歳の2年目だが、派手さとは無縁の生活を送っている。


丸山が部屋に現れたとき、海斗はベッドから起き上がったところだった。


「今日、俺死ぬの?」


いきなり海斗から声をかけられ、丸山はビックリした。しかし、あたふたすると舐められる。冷静を装って答えた。


「そうだね、たぶんね。あ、死因聞いてくるの忘れた」


海斗は寝ぐせ頭をかきながら、意外にも落ち着いていた。「まあ、喫茶店でも行こうか。最後の朝食くらい、ちゃんとしたものを食べたいし」


その前にリストみせて、

本当に「和田海斗⁈」

名前と年齢合ってる?と見せないって言っているのにマル秘リストを見て来た。

確認すると安心したようだった。


第三章 最後の提案


近所の24時間営業の喫茶店。朝の7時だというのに、海斗は堂々とモーニングセットを注文した。丸山はコーヒーだけ。


「で、どうやって死ぬんだ?」海斗は卵焼きを口に運びながら聞いた。


「それが、僕も知らないんだ。上司から引き継いだばかりで」


「もうちょい生かしてよ」海斗は真剣な眼差しで言った。

「まだ22だし、やりたいことだってたくさんある」

「お願い!」と両手で拝む。


丸山は海斗の言葉に、どこか共感のようなものを覚えた。死神の仕事は淡々と魂を回収することだが、目の前の若い命が消えるのは、やはり一抹の寂しさを感じる。

「気持ちはわかるけど、それが僕の仕事だから…」と言いかけた丸山を遮り、海斗は身を乗り出した。

「上司の仕事引き継げるなんて丸山さんって有能なんですね、死神会でもモテるんだろうな」


第四章 最後のゲーム


ちょっと気分がよくなった死神丸山は

「あ、そうそう」丸山は手帳をめくりながら、うっかり口を滑らせた。「今日は若い魂を2つ持っていくんだった」


海斗の目が光った。「え?もう一人いるの?」


「あ、言っちゃいけないことだった...」丸山は慌てて手帳を閉じようとしたが、海斗は身を乗り出してきた。


「じゃあさ、提案がある。もう一人が誰か当てたら、ボーナスで1年分の寿命ちょうだいよ」


「そんなこと...」


「有能な丸山さんなら、上司に掛け合えるでしょ?」海斗は笑顔で言った。


丸山は少し考えてから頷いた。「分かった。いいよ、チャンスあげる。30分以内にこの喫茶店でもう一人死ぬ人を当てられたら、ボーナスあげるよ」


海斗は店内を見回した。朝の時間帯で客は少ない。ウェイトレスの恵美ちゃんが忙しそうに動き回り、窓際の椅子では疲れ果てた様子の若い会社員が寝ている。

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