第6話 魔力炉管理施設
昼のスラム。どこか焦げ臭い匂いが立ちこめる一角に、小さなネオンサインが瞬いている。
雨漏りのする事務所で、ヴラッドはソファに寝転びながら、スマホの画面をスクロールしていた。
[魔導灯・保存食・魔力結晶の運搬]
[書籍、棚の運搬]
[魔力結晶ユニット一式を施設管理部へ納品]
日常的な依頼が無数に届く中で、配達案件もそれなりに多い。
「今日も平和な運び屋稼業ってか」
届いた通知を見てヴラッドが口を歪める。
誰にともなく呟きながら、タバコに火をつける。端末に並んだ依頼はどれもいつもの中からのものだ。
老婦人からは、毎度おなじみの生活用品の買い物リスト。
書籍と棚の運搬は、小規模の引っ越し依頼。
魔力結晶ユニットの運搬は整備業者から。
慣れた依頼、見慣れた文字列。
そんな中に、一件だけ別の配送業者からの依頼が混じっていた。
納品先は魔力炉管理施設。
依頼内容は、精製済みの魔力結晶ユニットを受け取り、指定の施設管理部へ届けるという、ごくありふれた配達案件だ。
相手も顔馴染みの業者で、これまでに何度も出入りしている場所。
セキュリティの厳しい施設ではあるが、ヴラッドにとっては勝手知ったる日常の一環でしかない。
「それじゃ今日も一日ハッピーに行きますかね」
そう呟いて軽魔導車に乗り込むと、ヴラッドはアクセルを踏み込んだ。
スラムの荒れた路地を抜け、舗装のきれいな表通りへ出る。
魔導車の排気音とともに、都市のざわめきが車内に薄く流れ込んでくる。
交差点で信号待ちをしている間、前方のビル群の合間から、魔力炉管理施設の白い外壁がちらりと覗いた。
そこは、グラヴァナでもっとも古くからある魔力供給の中枢であり、国の直轄区画でもある。
警備の目は厳しいが、施設管理部との繋がりさえあれば、業務車両としての出入りは難しくない。
午前のラッシュが過ぎた都市部は比較的穏やかで、道路もそれほど混んではいない。
数分後、魔力炉管理施設の門前に到着すると、ヴラッドは車の窓を開け、警備員へ軽く手を上げた。
「便利屋バッドバットでーす。いつもの配達ね」
「了解、通していいぞー」
ゲートが開く音とともに、軽魔導車は滑るように構内へ入っていった。
駐車場に軽魔導車を停めると、ヴラッドは受付の方へと向かい、係員へ声をかける。
「どうも、便利屋バッドバットですーす」
「おお、便利屋か。今日もご苦労さん」
受付の係員とも長い付き合いのため、特に怪しまれることはない。
魔力結晶を生成している魔力炉管理施設には、もう何度も配達できている。
「悪い、あんちゃん。ちょっと便所貸してくれねぇか?」
「ああ、構わないぞ。場所はわかるよな」
「大丈夫だ。サンキューな」
政府直轄の施設だというのに、トイレを貸してほしいという頼みも二つ返事で了承してもらえる。
それだけヴラッドはこの施設の人間の信頼度を勝ち取っていた。
それからしばらくして、事を済ませたヴラッドは係員に礼を述べたあと、荷物を受け取って魔力炉管理施設をあとにした。
「どんなに施設のセキュリティが高くても管理してんのは人間なんだよなぁ」
そう呟くと、ヴラッドは口の端を吊り上げたのだった。
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