第13話「奏多さん、楽しいですね」

「わぁ、いい天気ですね」


 夏の青空、太陽が容赦なく俺たちを照りつけてくる。今日も暑くなりそうだ。

 そんな日に、俺と美玲はちょっと遠くにあるプールに来ていた。平日ということもあって人はそんなに多いわけでもない。金曜日にしてよかったなと思った。


「ああ、プール日和ってやつかもな」

「はい。早く水の中に入りましょう。まずは流れるプールでしょうか」

「あ、う、うん、分かったから、そんなに引っ張らないで……」


 美玲が俺の手を取って、引っ張るようにしてプールに入ろうとする……と思ったら、「あ」と小さな声を出して、屈伸運動をする美玲だった。プールに入る前の準備体操なのだろうか。


「プールに入る前は体操をした方がいいと、小さい頃に教わりました」

「あ、ああ、そうだな、俺も軽くやっとくか……」

「はい。準備ができたら入りましょう」


 美玲はこの前買った、白青チェックのフリル付きの水着を身にまとっていた。そんな美玲は可愛くて、幼い感じが……おっと、それは怒られるので言わないようにしておいた方がよさそうだ。


 美玲を見ていると、こちらもなんだかドキドキするような感じがして……おかしいな、いつもの美玲のはずなんだけどな。水着という露出の多いものを着ているせいなのか、いつもより自分の心臓が高鳴るのが分かった。


 準備体操を終えた美玲が、ゆっくりとプールに入る。俺も続いて入ることにする。水が冷たくて気持ちいい。流れるプールに身を任せるように、ゆらゆら、ゆらゆらと流れる。途中で美玲が俺の手を取った。


「ん? どうした?」

「あ、いえ……流されてしまいますので、奏多さんの近くにいたいです」


 そ、そうか、離れるのが嫌ということなのかな。俺も美玲の手を握り返す。二人でゆらゆらと流れるのであった。途中で美玲が泳ぎだして引っ張られたりして……でも、楽しそうな美玲を見て、来てよかったなと思った。


 流れるプールを一周半くらい回った後、俺たちは一旦上がることにした。


「奏多さん、楽しいですね」

「ああ、久しぶりにプールに入った気がするよ。大人になってからはそんな機会もなかったからなぁ」

「私もです。奏多さんと来れて、よかったです。ありがとう、ございます」


 急に感謝の言葉を述べる美玲。俺はちょっと恥ずかしくなってしまった。


「い、いえいえ、あ、あそこでソフトクリーム売ってるね、美玲食べる?」

「あ、はい、食べたいです」

「分かった、ちょっとそこのベンチで待ってて、お金取って来るから」


 美玲をベンチに座らせ、俺はロッカーに戻ってお金を持って美玲のところに戻った。美玲はプールで遊ぶ子どもたちを笑顔で見つめていたようだ。


「お待たせ……って、どうした? なんかあったか?」

「あ、いえ、私にもあの子たちくらいの歳のときがあったなぁって、なんだか懐かしくなりました」


 浅いプールで遊ぶ子どもたちは、まだ幼いようだ。たしかに、俺も美玲もいきなり大人になったわけではない。あのくらいの歳のときがあって当然だ。


「そうだなぁ、俺も親に海に連れて行ってもらったことを思い出したよ。なんだか懐かしいな」

「そうですか、小さい頃の奏多さんは、可愛らしいのでしょうね」

「い、いや、まぁ、子どもではあったな……あ、ソフトクリーム買おうか」


 二人でソフトクリームを買って、ベンチに座って食べることにした。こうやって外で食べるのは美味しさが二倍にも三倍にもなる気がする。


「美味しいですね」

「うん、ソフトクリームも久しぶりに食べたなぁ。うちの近くではそういうお店がないからなぁ」

「そうでしたか。あ、奏多さん、口の下にクリームがついてますよ」


 そう言った美玲が手を伸ばして、俺の口元を触った。その仕草に俺はドキッとしてしまった。


「……あ、ご、ごめん、ありがとう」

「奏多さんも、可愛いところありますね」

「そ、そうかな……あはは。そういえば美玲はプールに行きたいって言ってたし、さっきも少し泳いでいたけど、もしかして泳ぐのが得意だったりする?」

「そうですね、泳ぐのは好きです。水が気持ちいいし、自分がどんどん前に進む感じが、嬉しくなります」

「そっか、それならよかった。食べ終わったらあっちのプールに行ってみようか」

「はい。あ、奏多さん、泳ぐの勝負しませんか? 負けた方がジュースをおごるということで」

「え、あ、いいけど、そんなに自信があるのか……」


 俺たちはソフトクリームを食べた後、25メートルプールに行って、二人並んで泳いだ。その結果、わずかの差で美玲が25メートルを先に泳ぎ切った。


 ……まぁ、美玲を勝たせたくて、ちょっとだけ手を抜いたのは、ここだけの話。

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