第14話:卒業旅行の計画、高まる期待
進路が決まり、陽菜と月見の心は、安堵と、新たな未来への期待で満たされていた。陽菜は美術大学へ、月見は陽菜と同じ大学の文学部へ。二人がこれからもずっと隣にいられるという確信が、陽菜の心を温かく照らしていた。月見もまた、陽菜との未来が現実のものとなる喜びを、日々噛みしめていた。受験勉強の合間には、互いの大学のパンフレットを眺めたり、新しい街での生活について語り合ったりすることが、二人のささやかな楽しみになっていた。
そんなある日、陽菜は、月見に特別な提案をした。放課後の図書室、いつもの奥の席で、参考書を広げながら。
「ねえ、月見さん。私たち、卒業したら、二人きりで旅行に行かない?」
陽菜の言葉に、月見は読んでいた本から顔を上げた。その瞳には、驚きと、そして微かな戸惑いが浮かんでいた。月見にとって、「二人きりでの旅行」という言葉は、これまで想像すらしたことのない響きだったのだ。月見の心には、期待と同時に、未知の体験へのわずかな不安がよぎった。
「……旅行、ですか」
月見が、陽菜の言葉を繰り返すように小さく呟いた。その声は、どこか探るような響きを帯びていた。
「うん! 卒業旅行だよ! 高校生活の最後の思い出に、二人だけでどこかに行きたいなって。温泉とか、海とか、高原とか……月見さんが行きたい場所なら、どこでもいいよ!」
陽菜は、月見の目を真っ直ぐに見つめながら、声を弾ませて言った。陽菜の瞳には、未来への輝かしい期待が宿っていた。月見との特別な時間を共有したい。その思いが、陽菜の心を突き動かしていた。
月見は、陽菜の熱心な眼差しに、微かに頬を染めた。月見の心の中で、陽菜の提案が、これまで想像していなかった「幸福な未来の可能性」として認識され、温かい感情が膨らみ始めていた。それは、月見の心に、新しい扉が開かれるような感覚だった。
「……陽菜さんが、そんなに楽しそうに話してくれるなら、私も、行ってみたいです」
月見の言葉に、陽菜の顔はパッと明るくなった。胸の中で、喜びの感情が大きく広がる。
「やったー! じゃあ、どこに行こうか? 美味しいものがいっぱいある場所とか、景色が綺麗な場所とか、ゆっくりできる温泉とか……」
陽菜は、目を輝かせながら、スマートフォンで旅行サイトを開き始めた。月見は、陽菜の隣で、その画面をじっと見つめている。陽菜が「この温泉、露天風呂がすごく綺麗なんだって!」と言えば、月見は「……素敵ですね」と静かに頷く。陽菜が「この街、地元の美味しいものがたくさんあるみたいだよ!」と言えば、月見は「……食べてみたいです」と小さく呟いた。
二人は、ガイドブックや旅行サイトを広げ、行きたい場所、やりたいことについて、熱心に話し合った。陽菜は、月見のささやかな希望を一つ一つ聞き漏らさないように、丁寧に確認した。月見は、陽菜の弾むような声を聞いているだけで、心が温かく満たされていくのを感じていた。月見の心には、陽菜との「共有する未来」が具体的にイメージされ、これまで感じたことのない高揚感を覚え、その感情はさらに増幅されていった。それは、月見にとって、「未来への希望」という感情を、これほどまでに強く意識した初めての経験だった。
「じゃあ、この温泉と、この街にしようか! 温泉でゆっくり疲れを癒して、美味しいもの食べて、景色見て……最高の旅行になりそうだね!」
陽菜は、計画がまとまってきたことに満足げに微笑んだ。月見も、陽菜の隣で、穏やかな笑顔を浮かべていた。その笑顔は、これまでの月見からは想像もできないほど、柔らかく、そして幸せに満ちていた。
この旅行が、二人の関係をさらに深める特別な時間になることを、陽菜も月見も予感していた。それは、単なる思い出作りではない。二人の未来を、より確かなものにするための、大切な一歩なのだと、陽菜は感じていた。月見の心には、陽菜との旅行が、まるで新しい物語の始まりのように思え、その物語の続きを、陽菜と共に紡いでいきたいという強い思いが芽生えていた。
受験勉強の合間には、二人で旅行の計画を立てるのが、すっかり日課となった。どこへ行って、何を食べるか。どんな景色を見て、どんな思い出を作るか。一つ一つ話し合うたびに、二人の心は高まり、旅行への期待は膨らんでいく。月見は、陽菜と話すことで、自分の世界が広がるのを感じていた。陽菜の明るさと行動力が、月見の閉ざされた世界に、新しい風を吹き込んでくれているようだった。
放課後、二人で並んで帰路につく。空には、既に星が瞬き始めていた。陽菜は、月見の手をそっと握りしめる。月見も、陽菜の手を優しく握り返した。二人の手から伝わる温もりが、互いの心を温かく包み込む。この旅行が、二人の揺るぎない愛情を、さらに深く、確かなものにするだろう。陽菜は、そう確信していた。月見の心にも、陽菜との「永遠の約束」が、より鮮明な形として刻まれていくのを感じていた。二人の未来は、この星空のように、どこまでも広がり、輝いているように感じられた。
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