ヘリタンス!
宮崎ゆうき
A線
A線 到底かなうわけがない
「返してよー‼」
そう叫びながら、
しかし、その手が本に触れることはない。
千景の手はただただ
「返してほしけりゃ、とれよ! ほらっ、さっさと奪ってみろ!」
乱暴に掴まれた千景の本が上下に揺れる。
千景は自分の腕を目いっぱい伸ばしてみるが、相手は自分よりも10㎝以上も背が高いのだ、到底かなうわけがない。
悔しさと惨めさが千景の中を埋めていく。それは今にも涙になって千景の体から溢れ出してしましそうだった。
中学生にもなって、どうして自分がまたこんな目に合わなければならないのか・・・。
千景の脳裏に小学生の頃の記憶が一瞬浮かび上がる。
ほんの数カ月前までの記憶だ。
こいつに、いじめられるのは初めてではない。
一旦は止まっていたいじめが中学に進学した瞬間、再開された。
原因は明白だった
「どうした。とらないのか? てか、なんだよこの本。オカルト・超常現象・幽霊・UMA? きっしょっ、オタク丸出し」
クラス中に響き渡るような声でそう叫ぶと、
呼応するように教室にいた数人の男子が同じように笑った。
軽蔑や優越感を含んだ悪意のある笑いが教室を埋める。
ほとんどのクラスメイトは見て見ぬふりを続け、じっと様子を伺っていた。
千景を助けようとするクラスメイトは中学生に進学した今、ただの一人もいない。
「お願いだから返してよ! それはじいちゃんの本なんだ。僕の本なら好きなだけあげるから、その本だけは返してよ!」
「そうか、それは大切な本だな!」
そう叫ぶと同時に、井坂は千景の本を勢いよく引き裂いた。
瞬間。ビリビリという乾いた音が教室に響きわたった。
千景を含む全員がその光景を目の当たりにし、静まり返る。
井坂だけが厭らしく嘲るような笑みを顔に浮かべていた。
いつのまにか、千景の目からは涙が溢れだし全身が怒りと悲しみでブルブルと震えていた。
そんな千景の姿を目にして満足したように井坂は、無残に千切れた千景のオカルト雑誌を床に叩きつけた。
「あ~あ、破れちまった。もうゴミだな」
お前が破ったんだろ。とは言えない自分が情けなくて仕方がなかった。
掴みかかって一発でも殴ってやりたい。
だけど身体は動いてはくれない・・・・・・。
そんな自分にも腹が立った。
千景は床に叩きつけられた本を素早く拾い上げ、机にかかった自身のスクールバックを掴みとると、逃げるように教室から飛び出した。
栓の壊れた蛇口のように涙は今もなお、千景の目からあふれ出ていた。
制服の袖で乱暴に目をこすり、千景は足早に校門へと向かう。
そんな千景を見た他クラスの生徒たちが、ひそひそと何かを喋っているのが横目にからでもわかったが、そんなことはもうどうだってよかった。
笑うなら笑え。
誰も助けてはくれないんだろ。
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