第26話 休戦協定と椿

それからしばらくして椿から連絡が来た。

ギルディラン魔王国との戦争が終結したと。

ナギサが予想していたよりも、遥かに時間がかかっていた。


(早乙女 椿)

ナギサさん、やっと一旦終結しました。


(ナギサ)

お疲れ様、かなり手こずったんだね。


(椿)

無茶苦茶ですよ、意地でも降伏しないんです。


(ナギサ)

結局どうなったん?


(椿)

力ずくで討伐して王女が継ぎましたが、参戦派で。

"必ず立て直して制圧してやる"と(ため息)


(ナギサ)

なら和平は、無理だな(ため息)


(椿)

休戦協定が精一杯で(ため息)


(ナギサ)

困ったなぁ……


(椿)

国王陛下も頭を抱えてますよ。


(ナギサ)

復興は良い、発展はどうする?


(椿)

発展させると侵攻してくる未来しか見えないんですが……


(ナギサ)

だよなぁ……

とりあえず国王に会うか。



ナギサは椿の案内で、国王に謁見する。


(ドラコ王国国王)

これは良く来てくださった、勇者よ。


(ナギサ)

なんか相当厄介な事になってますね。


(国王)

そうなのだ、ギルディラン魔王国が全く戦争を止める気が無いのだ。


(ナギサ)

立て直したら……だそうですね。


(国王)

あゝ、そうなのだ(ため息)


(ナギサ)

復興は良いとして、発展はどうします?

発展させたら、攻め込んでくる未来しか見えないんですが(ため息)


(国王)

たしかに(ため息)


(ナギサ)

どさくさ紛れのインフラ整備と食料事情のちょっとした改善程度にします?

次に備えて。

あまり大型施設を投入したら、再侵攻でのダメージがデカいですよ?


(国王)

そんなに高い……わなぁ……


(ナギサ)

ウチからの食料輸入は対応できますから、その辺りで止めときますか。

インフラは国防には必要不可欠ですし。


(椿)

わ、私がなんとかします。

施設の修理や再建も。


(ナギサ)

できる?

養殖やハウス栽培とかだよ?


(椿)

うっ……教えてもらえれば……


(ナギサ)

それはもちろん。

そうだ、学校に来て。

そういう専門学校作ってあるから。

寮住みなら衣食住はタダだよ。


(国王)

い、衣食住が無料の学校!


(ナギサ)

孤児院、貧民街出身限定だけど。

生まれで将来を諦めてほしくなかったから。

余裕ができたら、低所得者も受け入れる。


(ドラコ王国近衛騎士団団長:男)

だからの重用、莫大な給金。


(ナギサ)

たしかにたくさん給金はもらってますが、商売の利益も使ってます。

まだ足りないんですが、今はそこまでです。


(ドラコ王国近衛騎士団副団長:女)

それでは財産は……


(ナギサ)

食べていければ良いですから。

地位ももらってますし、困ってません。


(ドラコ王国王妃)

では、孤児院や貧民街の炊き出しや勉強塾は?


(ナギサ)

個人でやってます。

国がそこまで肩入れすれば不満が出ます。

個人的な慈善事業なら文句は出ません。


(王妃)

貴方は女神ですか!

いえ、だからこその女神と崇められていると。


(ナギサ)

まぁ、周りがそう言ってくれるのは嬉しい事です。


(椿)

私は立場も要らないかな、社交界とかウンザリしてるし。

贅沢しろと言われても、どうして良いか分からない。


(ナギサ)

元の世界には?


(椿)

今はどっちでも良い。

帰って社畜ももう嫌だし。


(ナギサ)

彼女の立場は保証されてます?


(国王)

もちろんだ、子爵の地位を用意している。


(椿)

平民で良いんだけどなぁ……


(国王)

そういう訳にはいかん。

功績を考えると爵位は最低でも与えなければ国の沽券に関わる。

周りの目があるが、子爵でも低いぐらいだ。

できれば我の息子と婚姻して王族になってもらいたい。


(ナギサ)

悪い話じゃないと思うよ?椿さん。


(椿)

うーん、ナギサさんはどうなんですか?


(ナギサ)

爵位は特に言われてないというか、周りが周りでしょ?

大教会ができて、そこに住む事になった。

3つの世界を行き来するから、爵位は邪魔になる。

まだ増えるかも知れないし。


(椿)

・・・えっ?


(国王)

たしかに"女神"と崇められたら爵位など不要。

女神に爵位など畏れ多い。


(ナギサ)

帰らない限り、ロロア魔王国の脅威にならないなら、ドラコ王国は任せたいんだ。

そういう意味では教会所属もアリかもね。

やる事が巨大事業だし。


(椿)

うーん、普通に暮らしたいから、教会はちょっと……


(ナギサ)

そこは自分で決めたら良いんじゃない?

で、まずはインフラだ。

ボクが魔法でやってしまう。

椿は学校で習得してくれる?

後々の修理やメンテナンス、技師育成はお願いしたいから。

後は農業の肥料投入、漁業の海での養殖、林業でのテコ入れ。

とりあえずここまで。

大型施設や複雑なのはギルディラン魔王国との決着がついてから。

施設狙われたら、損害が計り知れないから。


(椿)

分かりました、よろしくお願いします。


(ナギサ)

そんな感じでどうでしょうか?国王様。


(国王)

そう……だな、致し方ない。

高価な設備を潰されては堪らん、それでお願いしたい。


(ナギサ)

分かりました。

では椿さん、準備ができ次第、ロロア魔王国に向かいましょう。


(椿)

はい。


(近衛騎士団団長:男)

一応、護衛は付けようと思う。

よろしいか?


(ナギサ)

そうですね、多分大丈夫かと思うんですが、念の為。

身の回りの世話役も居た方が良いかも知れません。

こちらからも護衛と世話役を出します。


(近衛騎士団副団長:女)

護衛は私が参ります。


(ナギサ)

よろしくお願いします。



ナギサは準備の為に一足先に帰った。


(ナギサ)

ただいま。


(ロロア魔王国魔王 カイン・ロロア サキュバス)

おかえりなさいませ、シルフィア様。



ナギサは今後を話した。


(ナギサ)

そんな感じだけど良いかな?


(カイン・ロロア)

もちろんです、御心のままに。



ロロア魔王国からも護衛と世話役を編成した。

椿が到着後、引き継ぎをするとナギサはドラコ王国に向かう。

その姿を跪いて見送る近衛にどん引きするドラコ王国の者達。


(椿)

ナギサさんはもはや"神"なんですね(汗)


(近衛騎士団副団長:女)

そ、そのようですね(冷汗)



それから椿は学生寮に入り、専門学校に通った。

まずはインフラ関係から習得にかかった。

ナギサ"は"簡単だった。

"こんな感じ"で魔法で作るからだ。

しかし、全く知識の無い者からすると、全く未知の物。

分析をし、理論に落とし、設計しなければならない。

街道の水捌けを考えた"かまぼこ工法"なんか良い例だ。

ナギサは臨機応変に"感覚"で作る。

しかし、技師達は、理論を理解し、計算して設計で作る。

こうなると、設計一つにしても難しい高度な技術になってくる。

"感覚"で出来た物を"計算"で弾き出して設計図を書くからだ。

一気に難易度が上がる。

後、ナギサの致命的なミス。

椿に土魔法を付与していない、魔法陣も描けない。

ナギサの感覚と魔法で作った物を、理論と計算、技術で再現しなければならない。

これは大変だ。

そして、そこかしこに設置されている魔法陣。

これを理解して描けないとできない。

魔法学校も通わないといけない。

"無限生産システム"なんて考えただけでも失禁物だ。

解説により、理論は分かる。

しかし、魔法陣は筆頭魔道士でも描けたもんじゃない。

その前に魔力の"無限変換システム"が要る。

大体、元になる魔法陣が存在しない。

魔法発動の魔法陣に魔力変換の魔法陣は最初から入っているのだ。

しかし"魔素だけ"を取り出して"魔力に変換する"だけの魔法陣は無い。

しかも、全属性対応で、誤作動防止に不要な属性は削除してある。

そして複数属性に魔力を無限に送り続けている。

魔法学からしたら無茶苦茶である。

属性を決めて、発動に必要な魔力を体内や自然界から取り出して送り込み発動させる、一瞬だけ。

これを連続して止まる事なく必要全ての属性に注ぎ続けるなんて、神聖魔法と言われても仕方ない。

もはや人智を越えている。

これは誰も教えられない。

しかも解析しようとしたり、設置場所から動かしたりしたら自壊する。

見た目は出来損ないの魔法陣に見えるようにカモフラージュされている。

もう無茶苦茶な得体の知れない物である。

この魔法陣はナギサが直接設置する事になった。

運搬中の盗難を危惧したからだ。

ナギサはロロア魔王国、ドラコ王国、クラン王国、クソ世界と行き来しながら仕上げて行った。

椿の進行具合に合わせての為、時間には余裕があった。

可哀想なのは椿である。


(椿)

うにゃああぁぁぁっ、難しいよぉぉぉっ、頭が爆発する。

ナギサさんは良く理解してるなぁ……



ナギサが様子を見に来た。


(ナギサ)

どう?椿さん。


(椿)

ナギサさぁ〜ん、こんなのよく理解してますねぇ〜(涙目)


(ナギサ)

どれどれ?

なんだこりゃ、よく分からん。

こんな事、習ってるの?(驚)


(椿)

えっ?……


(ナギサ)

感覚だよ、大体の構造が分かれば"こんな感じ"で作ったよ。

魔法陣の間隔なんて適当だし。

必要と思えは設置している、気になれば多めに。


(椿)

そんなぁ〜!!(涙)


(ナギサ)

構造が分かってなければ無理だけどね。


(椿)

それは確かに……

でも魔法陣なんて……なんで一つにできたんですか?

いくつも設置しないと同じ効果は出せないですよ。


(ナギサ)

あっ、それ、オリジナル。


(椿)

えっ?


(ナギサ)

魔法陣は転生スキルで習得してるから。


(椿)

・・・(涙目)


(ナギサ)

これは付与できないから頑張ってとしか言いようが無いんだよ。


(椿)

・・・(泣)


(ナギサ)

気持ちは分かる。


(椿)

・・・(号泣)


(ナギサ)

転移だったから限界があるんだ(嘘)


(キリア)

仕方ねぇ〜じゃねぇ〜か、ナギサはあの世界では死んでんだ。


(椿)

・・・はい(滝涙)



渋々納得した椿だった。

椿と別れたナギサ。


(キリア)

しかし、そうなのか?不便だな。


(ナギサ)

いいや、付与できるし土魔法を使えるようにもできる。


(キリア)

じゃあ、なんで!


(ナギサ)

保険だよ。


(キリア)

エグっ、容赦無ぇ〜な。


(ナギサ)

じゃ、ボクの居ない時に唆されて暴走したら止めれる?


(キリア)

今でも無理だ。


(ナギサ)

そこにドラコ王国がついてるよ?


(キリア)

戦争、ふっかけてきたらヤバい。


(ナギサ)

可能な限り、最小限にしよう。


(キリア)

そうだな。



インフラに5年、魔法に7年、農林水産業に3年と、各専門学校を卒業した椿。


(ナギサ)

おめでとう、椿さん。


(椿)

ありがとうございます!


(ナギサ)

これからが本番だけど、頑張ろう。


(椿)

はい!



それからしばらくは椿に同行したナギサ。

設備は投入しないという事から、農業は肥料まで、漁業は養殖、林業は植林で止めた。

魔法陣に関しては盗難を考え投入せず、インフラだけにした。

インフラの魔法陣はとりあえずはナギサ特製が設置されていたが、椿製に置き換えた。

でないと補修整備ができないからだ。

当初の予定は終わった。


(ナギサ)

じゃ、ボクはこれで。

何かあったら、いつでも連絡して。


(椿)

ありがとうございました。

その時はよろしくお願いします。



ナギサはロロア魔王国に戻った。


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