翡翠の涙と渇きの呪い
成文 アラタ
序章
月明かりに照らされて
──彼女には笑顔が似合う。はじめて会った時から僕はそう思っていた。だから……彼女を泣かせるようなことは絶対にしないと……。ごめん……ごめん……ティアラ……。
──大丈夫だよ。サーロ。大丈夫。私は辛くないよ。悲しくないよ。ホントだよ。だからそんな顔しないで。キミまで泣くことないんだから……。今は私が涙を流すときなんだよ。キミのためにこの翡翠の涙を流せるなら、私は本望だよ。だからほら、泣かないでサーロ。ほら、私の涙を飲んで。
波の音が聴こえる夜の森の中。一軒だけ建っている古びた家は月明かりに照らされている。その中で、翡翠色の涙を流す少女と、刃物を力なく握ったままの血にまみれた少年がしゃがみ向かい合っている。
少女は少年の頬を両手で優しく包み込む。少年は悲痛な面持ちのまま、少女に促されるままに、彼女の頬に口をつけ、流れ出る翡翠の涙を、飲む。飲む。飲む。流れ出る涙は少年の渇き裂けそうな喉を癒し潤す。涙が止まらない。
翡翠色の涙を流すエルフの少女ティアラと呪われてしまった人間の少年サーロ。
月明かりが届かぬ二人から少し離れたところに、腹部と口から血をこぼし今まさに絶命したばかりの人間がもう一人。不敵な笑みを浮かべていた。
「大丈夫だよ。サーロ。涙は出るけど、私は辛くないよ。だから……飲んで」
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