第3話
⸻
第三章 聖者の名
「……アルナイル。」
ゼノは焚き火の炎を見つめたまま、ゆっくりと口にした。
「お前の名前は今日からアルナイルだ。星の名前だ。……暗闇を照らす光って意味もある。」
少年は目を瞬かせた。名前を持つのは、生まれて初めてのことだった。
「……アルナイル……ぼくの、名前……?」
「そうだ。嫌なら変える。」
「……ううん。……すき。」
その笑顔を見て、ゼノは少しだけ視線を逸らした。何億という命を奪ってきた男が、たった一人の少年の笑顔に心を動かされるとは、自分でも皮肉に思えた。
⸻
◆
だが、ゼノはまだ知らない。
その小さな体の奥に眠るのが、世界の命運を左右する「聖者の力」であることを。
聖者――神の愛し子。この世界で最も尊ばれる存在。王国も帝国も神聖皇国でさえ、聖者が現れれば最上の礼を尽くす。
……本来なら。
ゼノが見たアルナイルの痩せ細った体、痣だらけの肌。それは「本来あるべき扱い」とは真逆のものだった。
「……クソみたいな世界だな。」
焚き火の火がゼノの瞳に映る。怒りではない。だが、静かな殺意が樹海を震わせた。
「アルナイル。お前はもう誰にも傷つけさせない。」
その声は、死滅の樹海にいる全ての魔物を凍らせるほど冷たかった。
⸻
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます