第3話


第三章 聖者の名


 「……アルナイル。」


 ゼノは焚き火の炎を見つめたまま、ゆっくりと口にした。


 「お前の名前は今日からアルナイルだ。星の名前だ。……暗闇を照らす光って意味もある。」


 少年は目を瞬かせた。名前を持つのは、生まれて初めてのことだった。


 「……アルナイル……ぼくの、名前……?」


 「そうだ。嫌なら変える。」


 「……ううん。……すき。」


 その笑顔を見て、ゼノは少しだけ視線を逸らした。何億という命を奪ってきた男が、たった一人の少年の笑顔に心を動かされるとは、自分でも皮肉に思えた。




 だが、ゼノはまだ知らない。


 その小さな体の奥に眠るのが、世界の命運を左右する「聖者の力」であることを。


 聖者――神の愛し子。この世界で最も尊ばれる存在。王国も帝国も神聖皇国でさえ、聖者が現れれば最上の礼を尽くす。


 ……本来なら。


 ゼノが見たアルナイルの痩せ細った体、痣だらけの肌。それは「本来あるべき扱い」とは真逆のものだった。


 「……クソみたいな世界だな。」


 焚き火の火がゼノの瞳に映る。怒りではない。だが、静かな殺意が樹海を震わせた。


 「アルナイル。お前はもう誰にも傷つけさせない。」


 その声は、死滅の樹海にいる全ての魔物を凍らせるほど冷たかった。


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