第4話 親友の恋人
小中高の同級生、親友の塩田憩についに恋人が出来た!
学生時代から憩は異性からも大人気だったけれど、特定の恋人がいたことがない。いや、恋人を作れる環境になかった、という方が正しいかもしれない。
私・三屋今宵と憩の家はすぐ近所で、小学4年生に上がるタイミングで群馬から東京へ母子で引っ越してきた彼女とはすぐに仲良くなった。憩の祖母である絹子さんに日舞を習っていたという縁もあったが、クールそうな見た目とは裏腹に、積極的に明るく話しかけてきてくれる憩と、とにかく内気で話下手な私は相性が良かったのだと思う。
出会った当時の憩の家族構成は、母親と父方の祖母と3人暮らしだったが、越してきて半年も経たずに母親はいなくなり、祖母と二人暮らしになっていた。かと思えば、遠縁の女の子(4才)が現れ、さらに絹代さんの友人の孫の妹弟(6才と4才)が加わり、あれよあれよと塩田家は5人家族になった。詳細は省くが、引き取り手のない子供をなりゆきで面倒見ることになったらしい。近隣住民も最初のうちは特殊な家庭環境の塩田家に戸惑い、心配もしていた。けれどそれは杞憂に過ぎず、憩の母親こそ戻らなかったが、彼女達は私から見ても仲睦まじく幸せな暮らしをしていた。
憩の彼氏ついての情報をもたらしたのは意外にも私の兄だった。兄もご近所さんから聞いただけで、彼氏さんと面識はないらしい。
これまでも彼氏なのではないかと疑わしい男性候補が複数人いたし、男性の方は憩のことが確かに好きだったのだろうが結局全員違った。勘違いして欲しくないのは、彼女が思わせぶりな態度を取っているだとか、ちやほやされるのが好きだとか、そんな類の人間ではないということ。
憩は少し冷淡なところがある、良くも悪くも。想いを寄せてくる相手だろうが、男友達だろうが基本的に態度は同じだ。避けるでも近づくでもない。自分への恋心を感じさせる言動や行動があってもまるで存在していないように振る舞う。男性らはそんな彼女の無言の拒否を感じ取り、告白する勇気を失い、けれど縁は切りたくないので友達のままで居続け、時は流れて生活環境が変わるとその縁も自然と消滅していく。残酷なやり方だが、憩らしいとも感じる。
また、憩の特殊な家庭事情を知れば、軽々しくデートしようなどと声掛けしにくかったろうなと男性陣には少し同情する。(帰りを待つ幼い子供達がいて、憩が家事の多くを担っていたため。)
親友であっても人様の恋愛事情を無理に聞き出すのはよくない。けれど、親友なのに打ち明けてくれない憩も少し意地が悪い。だからこの行為は許されるのだ。自分を正当化し、鼓舞し、憩の妹ちゃん達に実際の所を尋ねてみた。(2人は、私の実家が営む本屋でアルバイトをしてくれている。)
「あれは彼氏だね」と、高校2年生の
明るく、今時の女の子らしい千叶ちゃんと、優しくしっかり者の風香ちゃんは特別仲のいい姉妹だ。休日も連れだって遊んだり、こうしてアルバイト先も共にするほどに。(他、高校2年生の
「でも本人は否定していてね。ほら、今までも彼氏かなって思う人は何人かいたでしょ?」
せっかくの土曜日なのにアルバイトに精を出し、かつ貴重な休憩時間を雑談に費やしてくれる2人にせめてものお礼としてドーナツを差し入れる。ドーナツを渡しながら言葉も一緒に投げかけると、千叶ちゃんは頭をぶるぶると右左に勢いよく振った。肩までのボブカットが派手に乱れていくのも気にしない。
「初めて会った時はあまりの冴えなさ具合に驚いたけどね。憩ちゃんもかなり気を許してる感があるし、次第に斎藤さんの性格の良さも分かってきたし。やっぱり彼氏なんだろうなぁと思ってる」
「そうだね。私もちいちゃんと同じく彼氏であるに一票。斎藤さんと初めて会う前に「天涯孤独の寂しいおじさんと一緒にご飯食べない?可愛いおじさんだよ」とかって、いつものふざけた調子で言ってきたの。
「ああ・・・」
予期せず
40年ほど前、2人の女児を誘拐して殺人した犯人として逮捕された四月一日さんの実父は、死刑判決を受けて収監。収監4年目に獄中で病死した。自分が生まれる前に起きた事件なので、ネットやテレビで見る程度の内容しか知らないが、被害者が幼い女児で、凄惨な犯行であったことから当時は連日大々的に報道された大事件だったようである。
なんて酷い事件だろう、被害者の女の子たちと家族が本当に可哀そう、犯人が逮捕されてよかった。事件概要を知った時の私はその程度の感想を持つだけで、被害者家族の心中を推し量ることはしても、加害者家族がどんな生活を送っているのかなんて想像すらしなかった。「自分はやっていない」と、犯人が冤罪を主張し続けていたことを、知る由もなく。
父親が死刑判決を受けて獄中死した後、母親は心を病んで入院したのち病死、姉は自殺し、12才で天涯孤独となった四月一日さんは児童養護施設で育ったそうだ。施設や学校でいじめられもしたのだろうが、陰を感じさせないお喋り好きで面白いおじさんという印象。
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