第26話:モスクワ陥落

「どうやら、レニングラードへの攻撃は巧くいったようだな」

「クメッツ提督、本国より追加命令です。「報復兵器の使用を許可する」とのことで御座います!」

「……搭載はしていたが、どうやら総統閣下はレニングラードを本気で灰燼に帰するようだな。まあいい、どうせ死ぬのはイワンだ、ありたけを打ち込んでやれ!」

「ははっ!!」


 報復兵器、いわゆるV兵器群のことであったが、V1ことFi103飛行爆弾はV2ロケットに比べ材料の調達も容易であったことから、多数が戦艦に備蓄されていた。当初はV3高圧ポンプ式ムカデ砲を戦艦の主砲として搭載する予定もあったのだが、信頼性及び兵器換装作業期間の関係上それは見送られた。そして、飛行爆弾は一斉に旧都めがけて飛び立った……。


「書記長、大変ですっ!!」

「なんだ、レニングラードのことなら聞いたぞ」

「そ……それが……」


 レニングラード攻防戦はブラフであった。レニングラードでの派手な「演出」はあくまでもこの作戦を成功させるための、目眩ましに過ぎなかったようだ。

 そして、1939年も10月に差し掛かる頃、ようやくソビエト連邦に最大の援軍が訪れたのだが、もうその頃には何もかもが遅かった……。


総統閣下マイン・フューラー、どうやら現地ではとうとう冬季に突入した模様です、冬季戦の構えがないまま戦うのは危険では?」

「……前線はどこにある」

「は、レニングラードは既に陥落し、ウラル山脈より西にある重大拠点といえばスターリングラードとモスクワくらいなもんでしょうか」

「……スターリングラードは通過させよ。モスクワを早期に囲むぞ!」

「は……」

『ははっ!!』

 1939年10月、漸くソビエト連邦にも冬将軍の予報が出され始めた。だが、彼らが援兵を行う頃には、もう何もかもが遅かった……。


「スターリングラードが陥落した!?」

「……如何なさいます、書記長」

「儂は残る」

「は!?」

「しょ、正気でございますか!?」

「ああ、儂は残る。このクレムリンを一歩も動かん」

「……畏まりました。それでは、ご随意に」

「おう」


 1939年9月23日、スターリングラードは東欧協同軍によって陥落した。通称、「ヨーロッパの拡大」と称されるそれは、ソビエト連邦がヨーロッパに含まれていないという表明でもあった。そして、キエフやカフカスなどの工業地帯は孤立、10月に入る頃にはモスクワ遠征が画策され始めた……。


「しかし、まさかここまでソ連軍が弱いとは思いませんでしたな」

「ああ、それもあるが、日本が東とドイツを抑えてくれたことが大きい」

「それは、確かに!」

「それじゃ、将兵諸君。クレムリンにヨーロッパの旗を掲げるぞ!」

『ははっ!!』


 そして、1939年10月。遂にモスクワは陥落した。腐った納屋にしては、豪勢な最期であった。

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