第5話:ネビル・チェンバレンという偉人

 ネビル・チェンバレン。その名声はあまりにも堆く積もりすぎて逆に見えないものがあるが、彼はガリポリの肉屋チャーチルと違い、紛れもない一代の英傑であった。彼の芸術的外交は今も尚、外交の教科書として語り継がれている……。

 彼の外交的事績を見て行こう。彼は巧みな融和外交によってドイツ第三帝国の歩武を助けるように見えて、徐々にしがらみを与えていった。ヒトラーも困惑したことだろう。何故自分たちの領土が増えていっているのに一向に国力が回復しないのか、と。無理もあるまい、チェンバレンがドイツに与えた領土は、オーストリアを除き悉くが罠であった。特にチェコスロヴァキアおよびズデーデン地方が罠であることは、同時代の誰も気づかない程巧みな敷設であった。結果として、ものの美事にドイツ第三帝国は罠に絡め取られた。何せ、治安維持のために派兵していった結果気づいた頃には軍事行動をしようにも兵員を調達できなかったのだから。

 今尚「他国の領土で他国の兵員を使い、美事に共産主義者を仕留めた」と賞賛されるチェンバレン外交術は、イギリスという国が外交によって成り立つ帝国であることを証明した。何せ彼は、先程も述べたとおり、イギリスの軍兵を、艦艇を、否、石油一滴すら使わずに対ソ包囲網を実現し得たのだから!無論、如何なチェンバレンとてアメリカ合衆国の大統領がアカのスパイであれば画餅と化したこの外交術であるが、そんなことはまずあり得ない想定であり、事実アメリカ合衆国の大統領、モスマン・ランドンは反共的で有名であった。その上、懸念事項である日米の仲の険悪化も徐々にジョセフ・グルーなどの手によって解きほぐされていった。そう、ルーズベルトさえ居なければこの世界は上手く回るように出来ているのだ。

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