第12話:取らぬ狸の皮算用
ノルマンディー上陸作戦は、少なくとも海軍力だけをみるならば可能であり、少なくとも橋頭堡の確保くらいであれば十二分に成功して然るべき堅実な作戦であった。問題は、もちろん別のところに存在した。本国艦隊同士の対決では、イギリスに軍配が上がるのは間違いない事実であったが、陸軍部隊の対決では、間違いなくフランスに軍配の上がる、というのは下馬評でも何でも無い、冷厳たる事実であった。もちろん、ナポレオン政権無き今、イギリスでもいい勝負はできそうにみえたが、フランスとイギリスでは、陸軍部隊の対決の場合、純物理的要素以外の差も存在していた。否、確かに意識や士気というものも、元を正せば脳髄の電気信号に過ぎないわけで、そういう意味では純物理的要素といえたかもしれないが、それをこの当時、誰が立証できただろうか? 故に、フランスは当初、イギリス軍とアメリカ軍が本土上陸作戦を決行し、それに成功したことに逆に感謝すらしたという。なぜか。彼等フランス陸軍からすれば、どうやらオスマン帝国のような「瀕死の病人」にいいように小突かれた現状を引き締めるために、イギリス軍やアメリカ軍との会戦は望むところであったからだ。それはすなわち、エングリシア語調で書くならばバックハンドブロウ、本朝調で書くならば後の先、という手合いの戦術をとったといえた。
そしてそれは、完全ではないものの正解に近い、少なくとも見当外れではない、そう考えるに十分なものであった。そう、少なくとも机上の計算では、そうといえるはずであった……。
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